U-17日本、第3戦は“らしくない”試合に 必要なのはチャレンジャーとしての心意気

川端暁彦

引き分けに終わり、“歴史的勝ち点”を献上

日本は今大会初出場のニューカレドニアに1−1と引き分け、“歴史的勝ち点”を献上した 【佐藤博之】

「天国に一番近い島」と評された国との一戦は、天国にほど遠い結末を迎えることとなった。

 10月14日に行われたU−17ワールドカップ(W杯)グループステージ第3戦。フランスの海外領土ニューカレドニアとの一戦に臨んだ日本は開始7分にMF中村敬斗(三菱養和ユース)の得点から1点を先行したものの、後半38分にCKから失点。1−1の引き分けという形で初出場のニューカレドニアに歴史的勝ち点を献上することとなってしまった。

「W杯で勝ち点を取れたんだ。選手にとっても、チームにとっても、そして“国”にとっても大きな試合だった」(ワカリエ・ドミニク監督/ニューカレドニア)

 記者会見でも興奮冷めやらぬ様子の指揮官はそう言ってほほえんだ。彼の言う「国」がフランスを指しているわけでないことは想像に難くない。FIFA(国際サッカー連盟)は明確に独立国となっていない地域のチームを「加盟国」として認めてきた歴史を持つが、ニューカレドニアはその列に加わる中で「国」としての存在感を国際舞台で示すことができたことになる。勝利したわけでもなく、勝ち残りが決まったわけでもないが、チームの指揮官は間違いなく誇らしげな「勝者」としてその場にいた。

大会を「エンジョイ」していたニューカレドニア

得点が決まった瞬間、はじけ飛ぶように喜びを分かち合っていたニューカレドニアの選手たち 【佐藤博之】

 恐らくニューカレドニアは今大会での勝ち残りなど最初から考えていなかったことだろう。実際、そのクオリティーは他の出場国と明白な差があった。初戦はフランスに1−7で敗れると、第2戦はホンジュラスに0−5と敗戦。結果が物語るとおりの内容で敗れており、日本戦も厳しいという見方が支配的だった。

 ただ、最初から織り込み済みの敗戦を重ねたところで、心が折れるものではない。せめて1点でも、勝ち点1でも奪い取って帰ろう。すべての登録選手を起用しながら、そのマインドは共有されていて、日本戦でも全力のプレーを見せてきた。後半38分、CKからの得点に至る流れは決して偶発的なものでもなく、「勝ち点1に値する頑張りだった」という森山佳郎監督の言葉も、偽らざる本音だろう。

 得点が決まった瞬間ははじけ飛ぶようにベンチもピッチも一体になって喜びを分かち合い、引き分けで終わってもやっぱり喜んでいたニューカレドニアの選手たち。「チームの一体感や、極限までハードワークした上で喜びに満ちあふれた姿を見て、『素晴らしいな』と思わされました」と日本の指揮官は率直に語っていたが、同時に漏らしたのは「僕らに足りないものを見せつけられた」という言葉だった。

 ニューカレドニアの選手たちは決して軽い荷物を背負ってこの大会に臨んでいたわけではない。島には部分もある植民地支配や独立闘争の歴史もあり、その点から島のことを調べていくと「天国に近い」という言葉がまるで別の意味に聞こえてくるほどである。だが彼らの様子に悲壮感は皆無で、この一生に一度の機会で思いっ切りプレーして楽しもうという空気感を存分に漂わせていた。その上で、いざピッチの上に立てば、一生懸命に戦い抜き、負ければ涙を浮かべ、1ゴールでも奪おうものならお祭り騒ぎ。ある意味、スポーツの原初的な要素を表現しているチームだった。もしかすると、大会を一番「エンジョイ」していたのは彼らだったかもしれない。

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著者プロフィール

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』をはじめ、『スポーツナビ』『サッカーキング』『フットボリスタ』『サッカークリニック』『GOAL』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。近著に『2050年W杯 日本代表優勝プラン』(ソル・メディア)がある

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