“情熱の指揮官”森山佳郎のチーム作り U-17代表に求めた戦闘能力、たくましさ

川端暁彦

U−17W杯に向けた直前合宿中の森山佳郎監督(下段中央)を直撃した 【写真:川端暁彦】

 6日に開幕するU−17ワールドカップ(W杯)に臨む日本代表チームを率いるのは、森山佳郎監督だ。かつてサンフレッチェ広島ユースを率いた10年半で8度の全国制覇を為し遂げ、高萩洋次郎、柏木陽介、槙野智章、森脇良太といったA代表に選出された選手を育てあげた。今大会に向けた2年半にわたるチーム作りは、サッカー選手としての根本部分を鍛えるところからスタートし、段階を踏みながら集団としての力を向上させていくものだった。その総仕上げの「発表会」を前に、“情熱の指揮官”を直撃した。(取材日:2017年9月27日)

「ファイナリスト」は胸に秘めておく目標

森山(右上)は広島ユース時代を例に、決勝で得られる経験の大きさを語った 【写真は共同】

――大会前、最後の選手選考というのはあらゆる代表監督が頭を痛める大仕事だと言います。

 間違いないですね(笑)。僕も最後の1人、2人を誰にするかはすごく考えました。スタッフにも相談し、最終的には「これだ」と思える21人を選ぶことができたと思っています。

――U−17W杯におけるチームの目標として「ファイナリスト」を掲げています。

 育成年代において、世界の舞台で(決勝までの)7試合を経験することの大きさを考えての目標設定です。(グループステージの)3試合で終わるのと、7試合を戦えるのでは、まるで違います。そして、つかむモノも失うモノも大きいファイナルという舞台を経験できれば、もっと大きい。自分も広島ユースで全国優勝を8回、準優勝を4回経験しています。勝ったときの喜びは本当に大きなものですが、負けたときのあの苦しさ、重さと言ったら……「ここ(決勝)で負けるなら1回戦で負けたほうがよかった」と言い出してしまうくらい(笑)。

 どこにこの気持ちを向けていいのか分からなくなるあの感覚、それを育成年代で経験するのはいいと思います。もちろん優勝できれば最高ですが、たとえ苦しみになったとしても、成長のエネルギーに変えることができます。決勝まで行くことができれば、選手にとってかけがえのない経験になる。だから、まずそこを目指します。

――勝ったら勝ったで、勝利経験はその後の財産になりますしね。

 スペインにしても、A代表がチャンピオンになる前にユース年代の代表が欧州や世界のチャンピオンになっていて、その流れでA代表が世界一のチームになった。そういう経験は大事だと思います。選手たちが「自分たちは世界でも勝てる」という、コンプレックスと逆の感覚を持てれば……。と、口では簡単に言っても、この目標は簡単なことではありません。

――それはそうです(笑)。

 先を見すぎてホンジュラスとの初戦(8日)を落としては本末転倒ですからね。みんなで「最後まで行こう!」と目標を共有しておくことは大切ですが、それは一戦必勝の精神を捨てるということではない。1試合、1試合を大切に戦っていくことは大前提で、グループステージはまず、そこを抜けることが何よりも大事。「ファイナリスト」は、その上で胸に秘めておく目標です。

中心メンバーが慢心することなく成長した

チーム結成当初、森山(中央)はベースの部分にフォーカスして強化を進めた(写真は2015年) 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

――チーム結成当初、森山監督が選手たちに向かって過去の例を出しながら、「お前たちは消えていくぞ。今ここにいない選手たちがもっと努力して伸びてくるからだ」と脅しをかけていましたが、実際には当時からかなりの数の選手たちが生き残った印象です。

 それは驚きの1つでしたし、うれしいことでもありました。代表合宿では個別の面接もするのですが、FWの宮代大聖(川崎フロンターレ)が「僕らはずっと『消える』と言われてきたけれど、代表に選ばれていない選手よりも、ずっと頑張って差を広げました」と言ってきました。

――しっかり成長した選手が多かったのは確かです。

 中心となっていたメンバーが慢心することなく伸びてくれたと言えると思います。彼らの成長が止まることなく、レベルが高くなり続けてくれたおかげで、逆に新しく伸びてきた選手が入りづらくなったのもあるかもしれません。高校のサッカー部の選手たちもかなりの人数を呼びましたけれど、なかなかフィットはしませんでした。

 ただ、僕もずっと高校サッカーを見ているから分かっていますが、彼らはここからググッと伸びて出てくると思いますし、その遅咲きの選手を拾い切れなかったかなという思いもあります。それでも、コアメンバーのレベルが上がったとは感じます。J3では6〜7人が試合に出ていますし、「もう早くトップチームでデビューしろよ」という高いクオリティーを持った選手がどんどん出てきてくれました。

――ここまでのチーム作りについてもお聞きしたいと思います。1年目はものすごく“フットボール”の原初的な部分というか、個人としての姿勢を強調されましたよね。そこに段々とチームの要素を乗せていきました。

 当然ながら、前提としてサッカーはグループとして戦うスポーツです。ただ、1枚1枚を太くしておかないと、最終的に太くて強いグループになれないと思っていました。若ければ若い段階ほど、球際や攻守の切り替えの意識、ゴール前の攻防など、ベースの部分にフォーカスしたのは確かです。

 今年に入ってからはグループで勝つためにという部分を追求してきました。特に最後の2大会(7月の国際ユースサッカーIN新潟と8月のチェコ遠征で参加したバツラフ・イェジェク国際ユーストーナメント)ではこれを強調しました。グループでボールを動かし、ボールを奪いにいくという部分は成熟してきたと思います。相手ボールの状況でいえば、時間帯、戦況、(ボールのある)ゾーン、敵の力などをしっかり判断して動けるようになってきました。

1/2ページ

著者プロフィール

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』をはじめ、『スポーツナビ』『サッカーキング』『フットボリスタ』『サッカークリニック』『GOAL』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。近著に『2050年W杯 日本代表優勝プラン』(ソル・メディア)がある

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント