ここまで把握できる投球データ ダルビッシュを科学する<第1回>

丹羽政善

回転数が多いほうがいいは正しい?

 続いて、回転数はどうか。

 多ければ多いほどいいという認識が広がっているが、果たしてどうなのか。それをいわゆる“キレ”であり、“伸び”に置き換える捉え方もあるが、本当に結果と連動しているのか。

 先程、ダルビッシュの試合ごとの回転数を紹介したが、以下に今年の2試合を抜き出してみた。

Aの試合:2428、2258、2504、2633
Bの試合:2518、2265、2554、2666
(それぞれ左から4シーム、2シーム、カッター、スライダーの回転数)

 この4球種の回転数を比較する限り、Aの試合のほうが全体的に回転数は低いものの、極端な差かといえばそこまでではない。いずれもメジャーリーグの平均は上回っているが、結果はといえば、極端なほど差がついた。

 Aは7月26日のマーリンズ戦。3回2/3を投げて、9安打10失点5三振2四球だった。Bはドジャースでの移籍初登板となった8月4日のメッツ戦。このときは、7回を投げて、3安打無失点10三振1四球だった。

 そもそもダルビッシュの回転数は、基本的に平均よりも高くばらつきも少ないが、結果そのものは、その日によって異なる。となると、回転数だけで、一概には打者を抑えられる要素かどうかを判断することは難しく、他のオールスタークラスの投手の回転数を見ても、同様だ。

 以下にジャスティン・バーランダー(アストロズ)、クレイトン・カーショー(ドジャース)、マックス・シャーザー(ナショナルズ)、ダラス・カイケル(アストロズ)、クリス・セール(レッドソックス)の5投手の回転数を調べ、平均とも比較した。

2016年〜17年の平均(17年は6月9日まで) 【画像:相河俊介】

 すると、バーランダー、シャーザーの回転数はともに高いが、今季14勝5敗、防御率2.90のカイケルの球は、全体的に平均よりも回転数が低かった。

 カーショーにしても、多くの球種で平均値を上回っているが、彼の代名詞とも言えるあの大きく縦に割れるカーブの回転数は平均を下回っている。セールのスライダーもあれだけ鋭いのに、数値だけを見れば平凡だ。

 では結局、打者を抑えるには、どんな球がいいのか。回転数はどこまで関係があるのか。

 今回、その問いを国学院大の准教授でバイオメカニクスを教え、投手の投球動作解析を行っている神事努氏に聞くと、まず、こう説明した。

「回転数だけでは分からない面も多い。見ないといけないのはボールの変化量です。ホリゾンタル(横)かバーティカル(縦)か」

 すなわち、「ボールがどれくらい変化するかが、大事なんです」。

 では、変化量とは何か。10月8日掲載の次回、そこを掘り下げていく。

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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