回転数から見えるもの、見えないもの ダルビッシュを科学する<第2回>
試合ごとに回転数や変化量が変わるが、ダルビッシュは何を意図して取り組んでいるのかを探った 【写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ】
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もっとも理解が中途半端だと、おばあちゃんのような勘違いをしかねない。情報過多の昨今、取捨選択や道案内が必要だ。
野球データの世界も同様。回転数、リリースポイント、バーティカルムーブメント、ホリゾンタルムーブメント等々、いまや投手が投げる球について、さまざまなことが瞬時に分かる。ただ、それを整理して理解する力がなければ面白みが半減する。一つ一つの数字が何を意味するのか、どう関連があるのかを知って初めて、全体像が見えてくる。
ボールの変化量が大事
まず、話を進める前に、「ボールがどれくらい変化するか」という神事氏の言葉を補足する必要がある。それは単に変化球の話だけではない。2シームやカットボールはもちろん、4シームも動いているのだ。
見るべきは、縦と横の変化量。これまでMLB公式ページの『GAME DAY』などで利用されていた「PITCH f/x」というシステムでは縦の変化量をバーティカルムーブメント、横の変化量をホリゾンタルムーブメントと呼んだ。そして「PITCH f/x」にとって代わった「Statcast」では、そのデータが検索できる『Baseball Savant』というウェブサイトで、横の変化量が「pfx_x」、縦の変化量が「pfx_y」と表示されている。
原理そのものは、どちらも同じ。球速、リリースポイント、投げ出しの角度が同じで、重力のみが作用する場合、ホームベース上のどの地点に達するかが基準となる。それに対して実際のボールはさまざまな回転がかかっているため、その基準点に達するわけではない。その差を求めたものが変化量である。それを神事氏が監修をしている『BASEBALL GEEKS(www.baseballgeeks.jp/)』に掲載されているイラストを引用して紹介すると、こういうイメージだ。
横の矢印がホリゾンタルムーブメント。縦がバーティカルムーブメント 【出典『BASEBALL GEEKS』】
・ホップ成分:基準の地点よりも上にボールが到達した場合
・ドロップ成分:基準の地点よりも下にボールが到達した場合
・シュート成分:基準の地点よりも右方向(投球腕方向)に到達した場合
・スライド成分:基準の地点よりも左方向(投球腕とは逆方向)に到達した場合
それを、下記の図を利用すると分かりやすい。
右投手の場合のボールの変化成分(『BASEBALL GEEKS』の画像をもとに作成) 【画像:相河俊介】
回転数は球質を知る一要因でしかない?
その要因について神事氏は、「カーショーは、きれいなバックスピンを意識している」と指摘した。
きれいなバックスピンがかかるとは、回転軸が進行方向に対して限りなく直角で、さらに地面と平行になければならない。この場合、横の変化量がゼロに近いということにもなる。カーショーの横の変化量を調べてみるとわずか0.01フィート(約0.3センチ)で、わずかながらシュート成分があるものの、この程度なら横の動きはほぼゼロと捉えていい。驚異的な“伸び”の裏側には、そうした要素があるが、回転数だけでは、ましてや、球速では決して見えてこないものだ。あとで改めてカーショーの4シームの特徴については触れるが、よって神事氏もこう話すのである。
「回転数だけでは分からないことも多い」
16年と17年で異なるダルビッシュの変化量
下記に2シームと4シームの縦の変化量をまとめた。
ダルビッシュの4シームと2シームの縦の変化量の推移。単位はフィート 【画像:相河俊介】
これは意図的か、もしくは、そうではないのだとしたら、なぜ、こういう現象が起きているのかだが、8月上旬にアメリカを訪れていた神事氏にその点を聞くと、こんな可能性を指摘した。
「ボールがジャイロ回転気味になっているのかもしれませんね。ジャイロ回転のように軸が傾いている場合、揚力が働かないので重力通りに落ちる」
その原因については、こう推測している。
「スライダーと関連があるかもしれない。スライダーを横に曲げようとすれば、リリースの時に小指をキャッチャーに向ける必要がある。4シームや2シームを投げるときにも、無意識のうちに小指からリリースしているのかもしれない」
結局、カーショーの4シームとは、回転軸が違うと考えられるが、その回転がどうなっているかは、「遠投をしてみれば分かる」そうである。
「きれいなバックスピンがかかっていれば、すーっと伸びていきますから」
そういえば8月終わり、ダルビッシュがアリゾナで珍しく遠投をしていた。遠投は必ずしも、肩を強くするために行うのではない。フォームや回転数をチェックするためにもプロの選手は使っている。
2シームはゴロ狙いか
ダルビッシュは昨年、抜くように投げることで2シームの回転数を落とし、沈むような球を投げようとしていたが、今年の球はその延長線上にあるとも取れる。仮に回転数を落とすことで、ゴロを打たせることが狙いにあるのだとしたら、結果は出ている。
今季(9月7日現在)、2シームに関して、フィールド内に飛んだ打球がゴロになった比率は60.24%で過去最多。12年は55%だったが、それ以外のシーズンは40%台。60%を超えたのはもちろん初めてだ。
また、4シームに関してもゴロの比率が増え、35.66%でやはり過去最高となっている。これまでは12年の32.14%が最高だった。
ともなってフライの比率が下がると仮定できるが、4シームのフライ比率は27.97%、2シームの場合は13.25%でいずれも過去最低。2シームに関しては昨年の22.81%から大きく下がっている。
ただ、4シーム、2シームともに、8月下旬以降、その軌道に変化が見られる。その点については、9日掲載の第3回でダルビッシュの言葉とともに検証していきたい。