移籍後の試行錯誤とつかんだ手応え ダルビッシュを科学する<第3回>
8月27日のブリュワーズ戦、DLから復帰後の試合でダルビッシュはフォームの変更をして臨んだ 【Photo by Masterpress/Getty Images】
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その日、ダルビッシュ有のフォームが、見た目にも明らかなほど一変していた。
DL中にフォームを修正
「DLに入っている10日間ですごく大きな変更というか、メカニックの部分ですごく(変更)した」
何をどう?
「トミー・ジョン(手術)が終わってから、肘のことを気にしながら投げている部分があった。もともと横振りの投げ方をするんですけど、それがかなり縦振りになっていたので、たまにスライダーが思うようにいかないことがあった。基本的に変化球を元のクオリティーに戻すということ。今はかなり(体の使い方を)横振りにしています」
肘の位置が下がれば、トミー・ジョン手術をした肘に負担がかかる。無意識のうちにそうなることを避け、肘の位置を上げていた。今回の変化はリリースポイントを見れば一目瞭然だ。
ダルビッシュのリリースポイント(縦位置)の変化の推移。右端のデータでリリースポイントが下がっていることが分かる(縦軸の単位はフィート) 【出典『BrooksBaseball.net』】
以下が、横のリリースポイントのデータである。
ダルビッシュのリリースポイント(横位置)の推移。グラフが下に下がるほど、三塁側からのリリースポイントを意味する(縦軸の単位はフィート) 【出典『BrooksBaseball.net』】
本人の言葉を借りれば、まさに「横振り」である。
肩の位置を平行にした効果
ドジャースがダルビッシュをトレードで獲得した後、リック・ハニーカット投手コーチが、ダルビッシュがメジャーに来た2012年からの映像を見返したところ、トミー・ジョン手術から復帰した昨年5月以降、テークバックを取ったときに左肩が上がりすぎていることに着目。サイ・ヤング賞の投票で2位に入った13年は両肩がほぼ平行のまま前方へ体重移動をしており、その方が制球も安定するのではと考えた。
ただ、「レベル(肩を並行)のままで、前までの腕の位置を維持しようとすると、全部引っ掛けちゃう」とダルビッシュ。「肩を修正するということは、肘の位置を下げなきゃいけないんで、(肘を)下げた」と説明した。
また、本人いわく、「(フォーム修正の裏には)変化球を元のクオリティーに戻す」という意図も裏にあり、それは主にスライダーを意識したものだが、その変化もはっきりとデータに現れた。
2016年から17年8月27日までのダルビッシュのスライダーの変化量の推移。縦軸の単位はフィート 【出典『baseballsavant.mlb.com』】
赤いラインはホップ成分とドロップ成分。マイナスの値が大きく、ドロップ成分が大きいほど、その軌道はいわゆる“縦スラ”となる。プラスの値――つまり、ホップ成分が大きければ、スライダーが真横に曲がるような軌道となる。
図を見ると、8月27日のスライダーの軌道はダルビッシュが狙ったように、“縦”から“横”になった。その日、本人もこう手応えを口にしている。
「最後の回(5回)の(エルナン・)ペレスに投げたスライダーとか、右打者がよく空振りしてくれていた。あと、4番の(トラビス・)ショーが一塁線、ダッグアウトへファウル打ったときもすごく曲がっていましたし、この前までのスライダーをあそこに投げたら、見逃しているんだろうな、と。ビックリしながら、ファウル打ってくれたのはいい部分だった」
なお、ブリュワーズ戦では、4シームの質も変化している。ホップ成分が1.74フィート(約53センチ)を記録し、今季最高だったのだ。昨年は1.8フィート(約55センチ)を超えることがほとんどで、10月7日のプレーオフでは1.93フィート(約59センチ)をマーク。今年に入ってからは、第2回で紹介したように、1.3フィート(約40センチ)を下回ることさえあったが、彼らしいボールの“伸び”が戻った。本人もそれを感じていたよう。
「僕の場合はもともと、肘が下がるほうが球威はある。ちょっと引っかけたり、抜けたりはあるけど、力はあったと思うので、真っすぐは良かったんじゃないかと思う」