移籍後の試行錯誤とつかんだ手応え ダルビッシュを科学する<第3回>

丹羽政善

8月27日のブリュワーズ戦、DLから復帰後の試合でダルビッシュはフォームの変更をして臨んだ 【Photo by Masterpress/Getty Images】

 ダルビッシュ有(ドジャース)のピッチングを、データから紐解く3回連載の最終回。今回はドジャース移籍後の8月にダルビッシュが何に取り組み、データがどのように変化したか追った。

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 例えば、髪の毛の長かった女の子が、急にショートカットにするような。あるいは、黒い髪を真っ赤に染めるような。

 その日、ダルビッシュ有のフォームが、見た目にも明らかなほど一変していた。

DL中にフォームを修正

 8月27日(現地時間)のブリュワーズ戦で10日間の故障者リスト(DL)から復帰したダルビッシュは、DL期間中に大胆なフォーム修正を試みた。

「DLに入っている10日間ですごく大きな変更というか、メカニックの部分ですごく(変更)した」

 何をどう?

「トミー・ジョン(手術)が終わってから、肘のことを気にしながら投げている部分があった。もともと横振りの投げ方をするんですけど、それがかなり縦振りになっていたので、たまにスライダーが思うようにいかないことがあった。基本的に変化球を元のクオリティーに戻すということ。今はかなり(体の使い方を)横振りにしています」

 肘の位置が下がれば、トミー・ジョン手術をした肘に負担がかかる。無意識のうちにそうなることを避け、肘の位置を上げていた。今回の変化はリリースポイントを見れば一目瞭然だ。

ダルビッシュのリリースポイント(縦位置)の変化の推移。右端のデータでリリースポイントが下がっていることが分かる(縦軸の単位はフィート) 【出典『BrooksBaseball.net』】

 これはリリースポイントの「高さ」を示したものだが、一番右のブリュワーズ戦で、大きく下がっているのがはっきりと分かる。また、「横」のリリースポイントに関しても、三塁側にずれていた。

 以下が、横のリリースポイントのデータである。

ダルビッシュのリリースポイント(横位置)の推移。グラフが下に下がるほど、三塁側からのリリースポイントを意味する(縦軸の単位はフィート) 【出典『BrooksBaseball.net』】

 若干補足が必要だが、プレートの中心を「0」とし、三塁側で投げれば投げるほど数値はマイナスになる。今年は開幕戦でプレートの一塁側から投げており、そのこともはっきり出ている。その後、本来の三塁側に戻したが、7月に入って真ん中に変えていることも明確だ。そしてブリュワーズ戦では、踏む位置を三塁側に変えた上でさらにリリースポイントを下げ、三塁側にずらした。

 本人の言葉を借りれば、まさに「横振り」である。

肩の位置を平行にした効果

 もっともフォーム修正の入り口は、肩の位置の修正にあったという。

 ドジャースがダルビッシュをトレードで獲得した後、リック・ハニーカット投手コーチが、ダルビッシュがメジャーに来た2012年からの映像を見返したところ、トミー・ジョン手術から復帰した昨年5月以降、テークバックを取ったときに左肩が上がりすぎていることに着目。サイ・ヤング賞の投票で2位に入った13年は両肩がほぼ平行のまま前方へ体重移動をしており、その方が制球も安定するのではと考えた。

 ただ、「レベル(肩を並行)のままで、前までの腕の位置を維持しようとすると、全部引っ掛けちゃう」とダルビッシュ。「肩を修正するということは、肘の位置を下げなきゃいけないんで、(肘を)下げた」と説明した。

 また、本人いわく、「(フォーム修正の裏には)変化球を元のクオリティーに戻す」という意図も裏にあり、それは主にスライダーを意識したものだが、その変化もはっきりとデータに現れた。

2016年から17年8月27日までのダルビッシュのスライダーの変化量の推移。縦軸の単位はフィート 【出典『baseballsavant.mlb.com』】

 まず、青いラインはスライド成分を示す。この値が大きければ大きいほど、スライダーが横に曲がっているということになる。

 赤いラインはホップ成分とドロップ成分。マイナスの値が大きく、ドロップ成分が大きいほど、その軌道はいわゆる“縦スラ”となる。プラスの値――つまり、ホップ成分が大きければ、スライダーが真横に曲がるような軌道となる。

 図を見ると、8月27日のスライダーの軌道はダルビッシュが狙ったように、“縦”から“横”になった。その日、本人もこう手応えを口にしている。

「最後の回(5回)の(エルナン・)ペレスに投げたスライダーとか、右打者がよく空振りしてくれていた。あと、4番の(トラビス・)ショーが一塁線、ダッグアウトへファウル打ったときもすごく曲がっていましたし、この前までのスライダーをあそこに投げたら、見逃しているんだろうな、と。ビックリしながら、ファウル打ってくれたのはいい部分だった」

 なお、ブリュワーズ戦では、4シームの質も変化している。ホップ成分が1.74フィート(約53センチ)を記録し、今季最高だったのだ。昨年は1.8フィート(約55センチ)を超えることがほとんどで、10月7日のプレーオフでは1.93フィート(約59センチ)をマーク。今年に入ってからは、第2回で紹介したように、1.3フィート(約40センチ)を下回ることさえあったが、彼らしいボールの“伸び”が戻った。本人もそれを感じていたよう。

「僕の場合はもともと、肘が下がるほうが球威はある。ちょっと引っかけたり、抜けたりはあるけど、力はあったと思うので、真っすぐは良かったんじゃないかと思う」

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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