ここまで把握できる投球データ ダルビッシュを科学する<第1回>

丹羽政善

時代は「Statcast」へ

 実はそれ以前――06年のポストシーズンから、「PITCH f/x」という3方向のカメラで投球を解析するシステムが、リーグ主導で大リーグの全球場に導入され、球速の他に、回転数、スピンアングル、曲がり幅などが分かるようになっていた。だが、14年から徐々に、「トラックマン」と選手の動きを追跡する「ChyronHego(カイロンヘゴ)」の2つを組み合わせた「Statcast」という新解析システムが運用され始め、今季から「PITCH f/x」に取って代わった。

 その「Statcast」のデータだが、『Baseball Savant』というサイト(baseballsavant.mlb.com)で各選手の詳細なデータを条件別にはじき出せる。

 例えば、ダルビッシュの回転数(1分当たり)も試合ごとに調べられる。下の表が16年と17年(8月4日まで)の球種別の回転数だが、昨年のリーグ平均(4シーム:2253、2シーム:2159、カッター:2275、スライダー:2264)と比較すると、いずれも高い数値をたたき出していることが分かる。

2016年のダルビッシュの球種別回転数。リーグ平均は4シーム2253、2シーム2159、カッター2275、スライダー2264 【出典『baseballsavant.mlb.com』】

2017年のダルビッシュの球種別回転数 【出典『baseballsavant.mlb.com』】

ダルビッシュの回転数の登板日ごとの推移 【画像:相河俊介】

 また、彼のリリースポイントに関しても、容易に分かる。これまでも数値で確認可能だったが、こうしてビジュアルで確認できるようになった。

 以下にマーリンズ戦(現地7月26日)と、ドジャースへ移籍したあとのブリュワーズ戦(8月27日)のリリースポイントを紹介する。

7月26日マーリンズ戦でのダルビッシュのリリースポイント。捕手からの視点 【出典『baseballsavant.mlb.com』】

8月27日ブリュワーズ戦でのダルビッシュのリリースポイント。捕手からの視点 【出典『baseballsavant.mlb.com』】

 これを見ると、ブリュワーズ戦のほうが、ややリリースポイントが三塁側にずれていることが分かる。また、ばらつきが大きいことも一目瞭然だ。

「Statacast」で分かるさまざまなこと

 他にも『Baseball Savant』ではさまざまなリサーチが可能で、例えば、どのコースにボールを集めているのか、コース別の回転数、カウントごとにどんな球種を投げているのか、といったことまで分かる。ダルビッシュの8月4日のデータを抽出するとこんな感じだ。

キャッチャーからの視点で四角い枠がストライクゾーン。色の濃い場所に球が集まっていることを表している 【出典『baseballsavant.mlb.com』】

コース別の1分当たり回転数。左下の青い箇所は「1427」 【出典『baseballsavant.mlb.com』】

データは何を意味するのか?

 さて、これだけデータが多くなると、当然それぞれの理解が重要になる。例えば、リリースポイントや回転数は、何を意味するのか。それを野球観戦においてはどう楽しめばいいのか。指導者はどう利用するのか。

 例えば、リリースポイントからは、こんなことが分かる。

 16年8月、ダルビッシュは調子そのものは悪くないのに、「スライダーが曲がらない」という言葉を度々、口にした。

 9月に入って、「PITCH f/x」の数値をまとめる『brooksbaseball.net』でスライダーリリースポイントを確認すると、故障前の14年と比較して、0.15フィート(5センチ)ほど高くなり、さらに三塁側に0.41フィート(12センチ)ほどずれていた。

14年と16年のスライダーのリリースポイントの比較。横軸のマイナスは三塁側を意味する 【画像:相河俊介】

 リリースポイントを高くすることは、彼がトミー・ジョン手術から復帰する過程で意識していたことであり、その限りでは問題がなかったが、想定以上だった。これについて、「高くなりすぎている」と話したダルビッシュはこう続けた。

「だから、スライダーが曲がらない」

 さらに身振り手振りで、こう説明している。 

「この高い位置からカーブを投げる分にはいいんですが、スライダーは確かに曲げにくいんですよ」

 そして、三塁側にずれていることも、スライダーが曲がらないことと無関係ではなかった。

「インステップになっているんでしょう。インステップでスライダーを投げようとすると、(体の回転が)窮屈になるんです」

 リリースポイントを修正して臨んだ16年9月9日のエンゼルス戦は、7回途中まで3安打1失点と好投。ダルビッシュは、本来のスライダーの切れを取り戻していた。

 もちろん、この限りではないので、次回以降で改めてリリースポイントについては触れる。

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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