【ボクシング】“PFP王者”ウォード電撃引退の理由 功績を見直されるべきプロファイター

杉浦大介

無敗のまま引退「戦う情熱が持てなくなった」

PFPランキング1位に君臨していたアンドレ・ウォードが電撃引退を表明した 【Getty Images】

“パウンド・フォー・パウンド(PFP)王者の電撃引退発表”――。

 現地時間9月21日、プロボクシングのWBA、IBF、WBO世界ライトヘビー級王者で、米国のボクシング専門誌「ザ・リング」が定めるPFP(※階級を超えて最強は誰かを決めるランキング)で1位にあったアンドレ・ウォード(米国)が、自らの公式サイトで現役をしりぞくことを明らかにした。

「ボクシングというスポーツに感謝しているが、もはや自分の体はこの競技の持つ厳しさに耐え抜くことができない。戦う情熱も持てなくなった」

 最終戦績は32戦全勝(16KO)。まだ33歳。その気になれば勝ち続けられたはずだし、もっと稼げたに違いない。早過ぎる引退にも思えるが、ウォード本人にはすべてをやり遂げたという達成感があるのだろう。

 2004年のアテネ五輪では、現時点までで米国男子としては最後となる金メダルを獲得。プロ入り後も無敗街道を走り、スーパーミドル、ライトヘビーの2階級で統一王者になった。

 スーパーミドル級時代には各国の強豪が参戦した最強決定トーナメント“スーパーシックス”に参戦し、ミッケル・ケスラー(デンマーク)、カール・フロッチ(イギリス)、アルツール・エイブラハム(ドイツ)といったトップファイターたちを寄せ付けなかった。

 昨年11月には微妙な判定ながらライトヘビー級の統一王者セルゲイ・コバレフ(ロシア)を撃破すると、7カ月後の再戦では8回TKOで勝利。この2戦で約1200万ドル(約13億4000万円)の報酬を稼ぎ、金銭的にもすでに十分に恵まれた。将来の殿堂入りも確実。だとすれば、“ファミリーマン”としての定評もあるウォードが戦い続ける理由がどこにあるだろう?

無敗のままでの引退は驚きではなかった

クルーザー級、ヘビー級への昇級といううわさも立っていたが、計算高さも感じられるウォードはその選択をしなかった 【Getty Images】

 ゲンナディ・ゴロフキン(カザフスタン)対サウル・“カネロ”・アルバレス(メキシコ)のビッグファイトが行われた9月中旬のラスベガス。関係者の間では、「ウォードがプレミアケーブル局のHBOと複数戦締結目前」といううわさが飛び交っていた。新契約の中には、クルーザー、ヘビー級への昇級という条項も含まれていたという。ただ、元来慎重で計算高さも感じさせるウォードが、加齢とともにリスクも大きくなる新たな挑戦に踏み切らなかったのは理解できる。

 業界の頂点に立つ王者が無敗のまま現役を離れるのは、15年9月のフロイド・メイウェザー(米国)に次いで3年間で2度目(※)。そういった意味で、ウォードの引退は衝撃的ではあったが、それでも彼を少なからず知るものにとっては特に驚きではなかったのである。

※メイウェザーは先月、コナー・マクレガー(アイルランド)戦で復帰したが、その後再び引退を表明

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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