デュッセルドルフで感じた宇佐美の覚悟 ライター島崎の欧州サッカー見聞録(2)
弾ける「ウッチースマイル」を見てビールを一気飲み
内田(右)はクロスから相手DFのオウンゴールを誘発し、「ウッチースマイル」が弾けます 【写真:アフロ】
まず、内田のポジションはサイドバックではなく、なんと右のサイドアタッカーでした。逆転を狙い攻撃的なタスクを任された内田は果敢に相手ゴール前へ入っていき、78分、ペナルティーエリア内で味方からのパスを後ろ向きに受けると、右足でボールを引くようにして反転してクロスを送り、相手DFのオウンゴールを誘発! その瞬間、チームメートが一斉に内田のもとに駆けつけて抱擁を交わしました。弾ける「ウッチースマイル」に思わず僕も破顔一笑。いや、いかんいかん。周りはフォルトナサポーターだらけだった。一応ポーズだけでも悔しそうな素振りをしよう。でも、やっぱり顔がにやけてしまう。苦しみ続けた彼のサッカー人生の歩みを知る者としては、この感情を抑えることなどできません。仕方がないので、悔しいんだかうれしいんだかが分からないようにビールを一気飲みしました。
ところで、「エスプリ・アレーナ」のビールの値段は500ミリリットルで4.5ユーロ(約600円)。少々お高く感じるのですが、給されるカップがリユースできるプラスチック製で、このカップを買った売店に返すと1ユーロ返してもらえるんです。
すみません、少し話が脱線しました。
宇佐美のゴールに感動しながら、またビールを飲む
宇佐美の同点ゴールを決めた瞬間は感動に打ち震えていました。ビールを飲みながら 【写真は共同】
それでも僕は少し感傷的というか、心の中で静かな感動に浸っていたんですよね。宇佐美の場合は2度目のドイツ挑戦で、それでもチーム内の立場が定まらずにベンチ入りすらままならない状況が続き、真っ暗なトンネルの中であがき、もがいていた。そこで今回、一念発起して2部での再トライを決め、そのデビュー戦で劇的な同点ゴール。
錯覚なんですが、聞こえたような気がしたんですよね、迷いなく右足の外側で強烈にボールをたたく瞬間に彼が発しただろうと思われる「うぉりゃー!」って声が。
「ここで、やってやる!」
その力強いゴールには全身全霊の決意が込められていた。それを感じて、僕は歓喜よりも感動に打ち震えていました。ビールを飲みながら。
ピッチ上へ投げ込まれたリユースカップを拾う少年、少女たち。あとで売店に返すんですね 【島崎英純】
宇佐美の仲間に駆け寄る姿に、ドイツで戦う覚悟を見た
日本人サポーターは、宇佐美の仲間のゴールを祝う姿から、必死に溶け込もうとする思いを感じたようです 【写真:アフロ】
「私が一番感動したのはね、宇佐美選手のゴールじゃないの。彼が決勝点を決めたフロリアンのもとに後ろから駆け寄って、おぶさるようにフロリアンの背中に飛びついたのよね。自分も異国で暮らしているから分かるんだけれど、今の彼はドイツでサッカーをプレーする覚悟を備えていて、この土地に必死に溶け込もうとしている。あの喜びの仕草には、そんな思いも含まれているんじゃないかなって思ったら、何だか泣けてきちゃった」
宇佐美は9月23日のブンデスリーガ2部第8節、アウェーのザンクトパウリ戦で移籍後初スタメンを飾り、またしても右足アウトサイドで強烈な今季2点目をゲットしました。あの鋭くシュート回転を描く軌道は、まさに稲妻のごとし。宇佐美貴史は今、新天地で鮮やかに蘇ったのです。
さて、次回はヘルタ・ベルリン、原口元気の話を。今、苦闘の中でも自己を見失わずに闘い続ける選手の姿を記したいと思います。