日本人が挑む車いすフェンシングの形 「距離のスポーツ」で見いだす勝機とは?

スポーツナビ

わずか数秒の間に剣のやり取りや駆け引きが行われる車いすフェンシング 【写真:ロイター/アフロ】

「エト・ヴ・プレ……アレ!(準備はいいか……始め!)」

 合図とともに2本の剣がぶつかり合う。吐息が「フッ」とマスクの奥からこぼれる。わずかな隙を見て相手のユニホームを突き、得点を示す音が鳴り響く。

 この間、数秒足らず。パラスポーツの一つである「車いすフェンシング」。ほんの一瞬で雌雄が決する世界に彼らは生きている。

 スポーツナビは、陸上・十種競技の元日本チャンピオンでタレントの武井壮さんが車いすフェンシングを体験するというNHKの撮影現場に同行。今回は競技の魅力と世界との距離について迫ってみたい。(武井さんによる車いすフェンシング挑戦記は後日掲載予定)

前回の東京パラで銀メダル獲得

 車いすフェンシングはその名のとおり車いすに乗って行う競技だ。肢体不自由(下肢障がい)者が対象とされるため車いすは固定され、選手はほぼ上半身の力のみで戦わなければならない。

 種目は健常者のフェンシングと同じく「フルーレ」「エペ」「サーブル」の3つが存在。胴体を突いてポイントを得る「フルーレ」、上半身全体を突いてポイントを得る「エペ」、切る・刺す行為が有効とされる「サーブル」と、それぞれ突いて良いポイントや剣の種類などが異なっている。

 カテゴリーは障がいの程度によって「カテゴリーA」「カテゴリーB」の2つに分かれ、Aは腹筋・背筋の機能があり自力で体勢を維持できる者、Bは主に腹筋・背筋の機能がなく体勢を維持できない者となっている。Aはスピード感やダイナミックさ、Bは卓越した戦略性が戦いの見どころだ。

 競技の歴史は比較的古く、初めてパラリンピックが行われた第1回ローマ大会(1960年)から正式種目に名を連ねていた。第2回の東京大会(64年)では、日本は3人一組のサーブル団体で銀メダルを獲得。ただ、当時はまだパラリンピックに出られる選手層が薄く、銀メダルメンバーの中には水泳との“二刀流”をこなす選手も。その後は国内の競技者がなかなか出てこない状況だったが、2000年のシドニー大会から3大会連続で選手を派遣したのち、20年の東京大会が決まって以降は加速的に選手の強化・発掘が行われている。

日本は勝ち方にこだわり、美意識が高い

国内でも有数の車いすフェンサーである加納 【スポーツナビ】

 選手たちは現在、京都に常設練習場を置き、日夜練習に励む。全国に50人ほどいる選手の中から「強化選手」に指定されるのが5人前後。今回はその「強化選手」のひとりで撮影にも参加していた、加納慎太郎(ヤフー)に話を聞くことができた。昨年のアジア大会で団体銅メダルを獲得するなど、国内でも有数のフェンサー(プレーヤー)である。

 2020年を目指す上で気になるのは「世界との距離」だ。加納は「日本人と他国のフェンシングのやり方は違う」と実感を込めて話す。

「日本は勝ち方にこだわり、美意識が高いです。体勢を崩して突いたら『ポイントにつながらない』と指導されたり、姿勢が悪いと言われたり。『今のはきれいじゃない、あんな打ち方じゃダメだ』と。海外の選手は基本的に突いてポイントにつながれば良いと考えているので、観点は違うなと思いますね」

 もともと武道が盛んで“武士道精神”が色濃く残る日本。それに比べ、例えば国威発揚のために選手をバックアップし、“勝つためなら手段を選ばない”ロシアや中国では戦い方が異なるのも当然か。ちなみに加納は「完全に日本人体質」だと自らを分析している。

「取られた1点に対してどれだけ自分の中で許せるか、納得できるかというところに僕の価値観はあって。でも、1ポイントにとらわれるのをトーナメントでやると、メンタルが弱くなるんです。15点ゲームの3点目ぐらいに(失敗が)あったりしたら、相手にどんどん攻められます。5本勝負の予選になるとなおさらですよね」

 また、加納は選手の中ではリーチが短い方だという。相手との距離の取り方が大事になる競技で「不利な状態だ」と認めつつも、相手を引き出すなどの駆け引きの部分に勝機を見出している。

「リーチが短いからというよりも、どうそのリーチを縮めるかの技術を磨かないといけない。切り返しとか、技術の卓越さで勝負する。日本人っぽいですよね(笑)」

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