加藤未唯、成長の鍵となった3つの敗戦 「全てつながり」WTAツアー初の準V
怒りでボールとラケットを投げつけ……
全米オープンの予選では、敗れた自分自身への怒りを抑えきれず、ボールやラケットを投げつけてしまった 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】
古庄コーチが挙げた最後の鍵は、先月末の全米オープン予選決勝の一戦である。その試合での加藤は、一進一退の攻防を繰り広げ、酷暑のなか一球も諦めることなくボールを追い、しかし最後は僅差で敗れる。3時間近く闘志をかき立て戦いそして敗れた時、彼女は自分自身への怒りを抑えきれず、ボールとラケットをスコアボードに投げつける。
「試合に負けて、自分のふがいなさとかにイライラしてしまって……あんな行動に出てしまったので。それはすごく反省しています」
会見の席で、加藤は神妙な面持ちでこうべを垂れた。
全米予選決勝の後、日頃拠点としているテニスアカデミーのコーチ陣や、親族たちからも「説教していただいた」加藤は、迎えた日本での大会“ジャパン女子オープン”では、「新しい自分を見せなくては」と自らに誓いを立てる。
「今大会の私の目標は、自分のテニスを貫くこと」
大会中の会見で、彼女はそう公言した。
「自分がどんなポイントの落とし方をしても、相手がどんなに良いプレーをしても、ぶれないで自分のやるべきことに集中する」
その結果、彼女は予選3試合を勝ち上がり、本戦でも3つの快勝を連ねて自身初のWTAツアーベスト4へと到達。そして迎えた準決勝の対ヤナ・フェット(クロアチア)戦は、彼女がこれまで学んできた……古庄コーチのいう「全てのつながり」の集大成とも言える試合だった。
過去の自分を乗り越えた“意志の勝利”
ジャパンウイメンズオープンの準決勝では、リードを許しながら粘った末に逆転勝ち。過去の自分を乗り越えた意志の勝利だった 【写真:田村翔/アフロスポーツ】
ところが、勝利への流れに飛び乗ったと思った直後の第3セット最初のゲームで、全てを失いかねないブレークを許す。しかも続くゲームでは、2本のブレークチャンスがありながらもつかみきれずゲームカウントは0−3に。ウィンブルドン予選のムハンマド戦を彷彿(ほうふつ)させる数字が、スコアボードに並んだ。
だがここでも彼女は、過去の自分を乗り越える。長いラリー戦で落とした痛恨のポイントすら「相手の体力を削れた」とポジティブにとらえ、前を向いた。フェットのプレーに突如の乱れが見られたのは、その直後。サーブの入りが悪くなり、簡単なミスも増えていく。加藤が体力を削り仕掛けた火種は、試合終盤の4−4の局面でついに火を吹き、相手のけいれんという形で顕在化した。
「フィジカルバトルになったら、負けないだろうってどこかで思っていた」と、試合後に加藤は言う。それは確かに、フィジカルの戦いではあった。だがそれ以上に、1つのポイントが、1本の打球が、逆転勝利に結びつくと信じ続けた、むしろ意志の勝利だった。
次の大会が本当の勝負になる
ダブルスを含め9日間で10試合を戦い抜き、シングルスで準優勝を果たした。しかし、本当の勝負は次の大会だと加藤自身も認識している 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】
「あとで写真を見たら、試合が終わって相手と握手する時もすごく笑顔で。私、めっちゃ笑ってるって!」
大会の翌日、昨日までの激闘などまるでなかったかのように、彼女は明るい声を上げた。
決勝戦の直後、ナショナルのコーチ陣からは「素晴らしい一週間だった。予選1回戦から最後まで全部集中してやりきれたことは、すごく大きな成長になる」と声を掛けられたという。同時に「次に出場する大会でも、同じことができるかが重要だ」とも念を押された。
「確かにそうやな〜って。今週できたからって、次にできる保証はないし……」。
だから、次の大会が本当に勝負だと思う――新たな誓いを立てるように、彼女は言う。
「全てつながり」今に至ったその道を、次にまたつなげていくために。