安間監督が選手に求める「ギブ&テイク」 今季を無駄にしない――。FC東京の再出発

後藤勝

孤立を深めていた大久保に求めたもの

周囲とあまり連動できていなかった大久保(13番)には、規律を守らせながらも能力を引き出すアプローチ 【(C)J.LEAGUE】

 篠田前監督はチームのかじ取りに苦労した。控え選手の士気を維持、高揚させることが難しく、ピッチ内でも個々のサッカー観がぶつかり合い、ひとつにまとめにくい。

 機能という点で孤立を深めていたのは大久保(嘉)だった。川崎フロンターレで実践してきたサッカーとのギャップを埋められない。FC東京のサッカーに合わせようと走り込んだり、連動してつないで崩したいところを1本のパスでフィニッシュさせようとしたり、努力はうかがえたが、基本的には周囲とあまり連動できなかった。とにかく、ボールが出てこない。

 より攻撃的に、主体的に戦えるチームに変えるべく自身が呼ばれたのだろうという思いがあり、加入当初は守備に偏っているように感じられるチームを変えていこうとする発言が多かったが、じきに沈黙した。批判的なコメントがメディアに載ることでの影響への懸念、そして今後も変わらないだろうという諦念がその背景にあった。

 安間監督はウタカに最低限のディフェンスをするよう求めている。どの選手も特別扱いはしない。大久保(嘉)に対してもそれは同様で「嘉人中心のチームではないということは、まずはっきりさせておかないといけないと思います」と言っている。ただ、だからと言って彼の力を引き出さないというわけではなく、彼の献身、他の選手を牽引する姿勢を求めないわけでもない。安間監督は言う。

「嘉人がやりたいのは、フロンターレとは言わないけれど、それに近いサッカーだと思います。(風間)八宏さんも(ヴァンフォーレ)甲府の練習を見にきたり、いろいろと試行錯誤してあそこまでいったけれど、1年目や2年目から満足できるサッカーをしていたわけではない。だとしたら、1年目から(満足を)望むのではなく、『ギブ&テイク』、まず出すものを出さないと、得られるものも得られない」

 規律を守らせながらも能力を引き出す。その結果、個の融合が生まれ始めている。残り8試合となったリーグ戦。タイトル獲得という目標は縁遠くなったが、安間監督以下選手たちの「残りの時間を無駄にしたくない」という思いは本物だろう。少しでもいいサッカーができるように、そして個の力を生かしチームの力に昇華できるよう、改善していくしかない。

篠田前監督が残した財産

過去の財産と、持ちうる武器を融合させた安間監督。残り8試合という時間でどのような手腕を見せるのか 【Getty Images/J.LEAGUE】

 最後にひとつ。安間監督のサッカーには、前任者のエッセンスが残っている。ボールを支配するところは安間流のアイデアだが、その先の話だ。ボールを奪われた瞬間のすばやいトランジション、高い位置でボールを奪い返してのショートカウンターは、篠田前監督の専売特許だった。

「失った瞬間の切り換えはシノさんのときにずっとやっているわけだから」

 もともと持っているものを生かせ、と安間監督は言う。第一義にはポゼッションを好む選手たちのボール扱いの技術を指した言葉だが、同時に前監督の忘れ形見を指したものでもある。

 過去のすべてをなかったことにせず、自分たちが持ちうる武器を融合させて立ち向かう安間監督のサッカーに、一片の矜持(きょうじ)を感じる。

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著者プロフィール

サッカーを中心に取材執筆を継続するフリーライター。FC東京を対象とするWebマガジン「青赤20倍!トーキョーたっぷり蹴球マガジン」 (http://www.targma.jp/wasshoi/)を随時更新。「サッカー入門ちゃんねる」(https://m.youtube.com/channel/UCU_vvltc9pqyllPDXtITL6w)を開設 。著書に小説『エンダーズ・デッドリードライヴ 東京蹴球旅団2029』(カンゼン刊 http://www.kanzen.jp/book/b181705.html)がある。【Twitter】@TokyoWasshoi

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