監督が代わっても信頼を得続ける長友佑都 スパレッティが評価した戦術理解の高さ

神尾光臣

名将のもとでプレーの質が著しく向上

開幕戦と2節のローマ戦では先発出場を果たした長友のプレーには、薫陶を受けた成果が現れていた 【Getty Images】

 かくして長友は、夏の間スパレッティ監督のもとで研鑽(けんさん)を積むことになった。クリスティアン・アンサルディの故障による出遅れ(その後、トリノに移籍)や、新戦力となるサイドバック獲得の遅れという事情もあったが、アジア遠征での練習試合では4試合に先発出場。「規律が高くて、こちらから要求したことを全て忠実にやってくれる」とイタリアの地元メディアにも声高に評価を語った指揮官は、セリエA開幕戦フィオレンティーナ戦(3−0)と、第2節のローマ戦(3−1)で長友を先発起用した。

 そのプレーには、薫陶を受けた成果が表れていた。「守備の指示は体の向きから相当細かく、攻撃でもポジショニングとか相当厳しい。要求が高い」(長友)というスパレッティの指導を通し、長友のプレーの質は確実に向上していたのだ。

 フィオレンティーナ戦の前半5分、長友は先制点となるPK獲得のお膳立てをしている。後方でプレスを掛けられたところをクイックなボールコントロールで外すや、前線のマウロ・イカルディ目掛けて右足で正確なミドルパスを間髪入れずに放った。これは、練習で培った戦術パターンの一つ。スパレッティ監督は縦に素早い攻撃の構築をDFラインから意識させており、こういったミドルパスの組み立ても練習メニューの中にあった。

 合宿で見た練習のパターンは複雑で、戦術を細かく想定したメニューになっていた。クロスの練習でもただサイドからボールを上げさせるのではなく、マーカーに見立てたダミーを使って、実戦に近い状況を常に意識させる。その中にこんなものもあった。サイドを切りに来た相手を中に切り込んでかわしたのち、右足でファーサイドにクロスを入れる。長友が日本vs.オーストラリア戦で浅野拓磨のゴールを導き出したアシストのそれだった。

 もちろん細かいポジショニングの指導も奏功し、長友は守備の安定でも向上を見せた。ローマ戦では対面に俊足のグレゴワール・デフレルがいて、同サイドにはラジャ・ナインゴランも攻めてくる状況ながら破綻を見せなかった。丁寧なボールさばきとパス出しで激しいフォアプレスを切り抜けるなど、昨シーズンならボールロストにつながったような場面でも堅実だった。スパレッティ監督はフィジカルコンディション向上目的の練習でも極力ボールを扱ったメニューを組んでおり、それがボールコントロールの安定も生んでいたのだろう。とにかく長友は、右腿裏の筋肉に違和感を訴えて退くまで相手の攻撃を抑え切った。

「もう戦術は理解しているし浸透もしている」

第3節、第4節ではベンチスタートに回されたが、「スタメンで出ても途中で出てもやれる」と自信のコメント 【Getty Images】

 もっともそんな長友も、第3節、第4節ではベンチスタートに回される。同ポジションには、2000万ユーロ(約26億5700万円)の移籍金で獲得された新戦力がいたからだ。ニースに所属していたブラジル人サイドバックのダルベルト・エンリケ。爆発的なスピードと繊細な左足の技術を生かした攻撃参加が魅力で、昨季のリーグアンでは最高のサイドバックと数えられた24歳である。

 ただ獲得交渉が長引き移籍が遅れたダルベルトは、練習を積むことができず戦術の吸収に手間取っていた。野性味あふれるオーバーラップは影を潜め、守備でもポジショニングが安定しない。そして慣れない動きの中で筋肉が疲労を訴える。第3節のSPALフェッラーラ戦(2−0)は足がつる中をなんとか持ちこたえたが、第4節クロトーネ戦(2−0)は動けなくなった。

 そこから長友が呼ばれた。「(戦術上の指示は)特にない。もう戦術は自分の中でも理解しているし浸透もしている」という彼は、攻守両面で的確に動き、試合の流れを変えた。

 後半34分、相手の左クロスに対しファーへ走りこまれた場面でも冷静沈着にカバー。その直後には、前半で警告をくらい強く相手FWに当たれなかったミランダのフォローへいき、ボールを奪った。そして37分には、タイミング良くスペースを駆け上がったのちにイバン・ペリシッチへワンツーを要求。裏のスペースへ飛び出してファウルを誘い、それが先制点のFKへとつながった。

 クロトーネの執拗(しつよう)なプレスにより、この日のインテルは後方からの素早い組み立てが阻害されていた。そこを動かしたのが、長友のタイミングの良い攻め上がりだったのだ。実は、スパレッティ監督が彼を最も評価しているのもこの動き。「縦のスペースの取り方については完璧なほど」と、戦術理解の高さに信頼を寄せている。

 厳しいポジション争いについても「そりゃもうここにいる以上は厳しいですよね」と平然と語った長友は「コンディションを本当にいい形で持ってこれているので、スタメンで出ても途中で出ても、自分の中ではやれるっていう自信はある」と言い切っていた。7月初頭「勝負できると思ったら(インテルに)残る」と語っていたが、練習を通しその自信が培われたということなのだろう。

 これまで長友がインテルで、監督が代わっても信頼を得続けてきたのは、精力的に練習に臨んできたからだ。その彼は健在だった。「一番指示が細かい」という戦術家から何をつかみ取り、ピッチでどういう貢献を果たすのか。開幕4連勝と好調のチーム共々、良い意味でのサプライズをもたらすことになるかもしれない。

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著者プロフィール

1973年9月28日、福岡県生まれ。東京外国語大学外国語イタリア語学科卒。97年の留学中にイタリアサッカーの熱狂に巻き込まれ、その後ミラノで就職先を見つけるも頭の中は常にカルチョという生活を送り、2003年から本格的に取材活動を開始。現在はミラノ近郊のサロンノを拠点とし、セリエA、欧州サッカーをウオッチする。『Footballista』『超ワールドサッカー』『週刊サッカーダイジェスト』等に執筆・寄稿。まれに地元メディアからも仕事を請負い、08年5月にはカターニア地元紙『ラ・シチリア』の依頼でU−23日本代表のトゥーロン合宿を取材した。

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