【ボクシング】年末の統一戦が微妙となった田中恒成 適正階級も考慮し、的確な選択を

船橋真二郎

両目が見えづらい中での鮮やかな逆転KO

両目が見えづらい状態で戦った田中(左)。見事な逆転勝ちに、場内は沸いた 【写真は共同】

 1ラウンド終了間際、パランポンの右打ち下ろしで田中がまさかのダウン。2ラウンド辺りから腫れが目についていた左目は、3ラウンドには視界を遮るほどになった。さらに4ラウンドには右まぶたをカット。左に加えて、右までも腫れと出血で見えづらい状態となっていく。

 それでも田中は攻めた。前後、サイドにステップを切りながら、パランポンのインサイドに切りこみ、5ラウンドからはボディの比重を高めていく。視野の影響もあって、反応が遅れ、待ち構えるパランポンのカウンターを浴びる場面もあったが、被弾もいとわない果敢な姿勢を随所に見せた。

 迎えた8ラウンド終了間際、左フックでパランポンをよろめかせると9ラウンドにワンツーの速射で鮮やかに倒す。立ち上がったが、足もとのおぼつかない挑戦者を逃さず、的確な連打でロープ際に追い込んだところでロベルト・ラミレス主審(プエルトリコ)が割って入った。8ラウンドまでのポイント上は77対74が2者、76対75が1者と田中がリードしていたものの、苦境を挽回しての見事な逆転勝ちに場内は沸いた。

 試合直後のリングでインタビューに応じた田中は「こういう大事なところで、こういう試合をして。ちょっと自分にガッカリ」と不本意な内容に納得のいかない表情だったが、統一戦について話を向けられると「こんな試合をしているようでは……とは言いません。やります」と意欲。一方の田口もまた「スゴすぎじゃないですか。1ラウンドのダウン、左目の腫れ、右目もカットして、心が折れかけても仕方ない状況なのに勝ちに持っていくメンタルの強さ。いい打ち合いになりそうだし、ますます試合をしてみたくなりました」と気持ちを高ぶらせていたのだが……。

無理な減量も影響か 統一戦の実現は厳しい?

ケガの完治とともに、減量の負担も考えると、統一戦の可能性は限りなく厳しい 【写真は共同】

 畑中清詞会長は「未来がある選手なので、しっかり体を治すことが最優先。次のことはそれから考えたい」とコメントし、名古屋に戻ってから再度受ける精密検査の結果をもって、今後のことを決める方針。「検査の結果次第では」という淡い希望は残るが、年末までは3カ月。ケガが完治してからの練習期間を考えても状況は限りなく厳しい。

 ケガだけではない。計量時の田中の頬のこけ方などを見ても、すでにライトフライ級は限界にきている。パランポン戦でのパフォーマンスにも少なからず影響が出ていたのではないか。もともと「この階級は長くても今年いっぱい」と語っていた田中。無理な減量は体への負担が大きい。畑中会長が言うように22歳の田中には、まだ無限の未来がある。田口との統一戦が実現しないことは残念だが、適正階級もしっかり考慮に入れて、判断してもらいたい。

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著者プロフィール

1973年生まれ。東京都出身。『ボクシング・ビート』(フィットネススポーツ)、『ボクシング・マガジン』(ベースボールマガジン社=2022年7月休刊)など、ボクシングを取材し、執筆。文藝春秋Number第13回スポーツノンフィクション新人賞最終候補(2005年)。東日本ボクシング協会が選出する月間賞の選考委員も務める。

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