【ボクシング】背水の舞台で実力を証明した岩佐亮佑 英国での経験を糧に日本人対決制する

船橋真二郎

遠回りの末に世界王者初戴冠

王者・小國以載を6回TKOでしとめ、新チャンピオンとなった岩佐亮佑 【写真は共同】

「本当に長かったです。ここまで来るのが。僕より後にデビューした選手が先に世界チャンピオンになる姿を見て、悔しい思いをしながら、我慢して、素直に愚直に頑張ってきたから、なれたと思ったし、その悔しい思いがあったからこそ、ここまで頑張れたと思う」

 高校3冠の実績を引っ提げ、9年前にプロデビュー。ボクシングファンの注目と期待を集めながら、6年半前の日本王座初挑戦で、のちにWBC世界バンタム級王座を12度防衛することになる山中慎介(帝拳)に敗れるなど、挫折を味わい、遠回りし、ついに頂点にたどり着いたボクサーの言葉に感慨が込められた。

 13日、エディオンアリーナ大阪(大阪府立体育会館)で行われたプロボクシングのIBF世界スーパーバンタム級タイトルマッチは、王者の小國以載(角海老宝石)に挑んだ同級3位の岩佐亮佑(セレス)が6ラウンド2分16秒TKO勝ち。サウスポーの岩佐が1ラウンドに1度、2ラウンドに2度、いずれも左ストレートで小國をキャンバスに送り、圧倒的優位に立った。これが初防衛戦の小國も意地を見せ、最後まで攻めの姿勢を貫くが、口からの出血が激しく、ダメージも明らか。ドクターチェックを要請したウェイン・ヘッジペス主審(米国)がそれ以上の続行を許さず、岩佐が新チャンピオンとなった。

共に「負けたら最後」の覚悟を持って臨んだ一戦に

小國は1ラウンド目から積極果敢に岩佐を攻め立てた 【写真は共同】

 キャリア2度目の世界挑戦を前に「ラストチャンス」と宣言し、臨んだ背水の舞台で岩佐は同じ過ちを犯さなかった。

 11年前の全国高校選抜大会で対戦し、1学年下の岩佐がポイント勝ち。因縁の日本人対決と位置づけられた一戦は、結果だけ見れば圧勝だったが、試合後に岩佐が「僕としても瀬戸際だった」と振り返ったように、追い込まれた小國が「何かが起きれば」と強気にパンチを打ち込み、打たれてもまた前に出てくる気迫は「想定外」だった。試合後、引退を表明した小國も負けたら最後の覚悟を持って、リングに上がっていたのである。

「心が折れかけたところもあった。気持ち的に追い込まれ、少し焦りが生まれた」(岩佐)

 試合前、小國は事あるごとに「サウスポーは苦手」「岩佐は嫌いなタイプ」と公言。実感か陽動か、けむに巻くような言動を繰り返してきたが、本来の姿は「内に秘めているものはすごく強くて、負けず嫌い」だと角海老宝石ジムの阿部弘幸トレーナー。プロ転向後もスパーリング経験がある岩佐も「小國さんには断固たる信念があって、心の中では煮えているような人」と承知していたのだが……。

セレス小林会長との呼吸も合い立て直す

自分のボクシングを見失いかけた岩佐だったが、セレス小林会長の言葉で一度立て直し、TKO勝利を奪った 【写真は共同】

 4ラウンド、5ラウンドと捨て身で攻める手負いの小國に対し、岩佐は有効打を集めながらもペースに引きずり込まれかける。そこで踏みとどまることができたのは、2年前、イギリスでの世界初挑戦で喫した6ラウンドTKO負けの苦い経験だった。

「(イギリスでは)自分を信じきれていなかった。(敵地だから)判定じゃ勝てないし、とか余計なことを考え過ぎて、自分のボクシングが乱れた。『ヤバい、いかなきゃ、いかなきゃ』といき過ぎて、倒された。自分を見失ったことがいちばんの敗因」

 6ラウンドを前に師弟の呼吸も合った。小國に攻められ、「行ってやろう」とまた行き過ぎている自分がどこかで「客観的に見えていた」という岩佐。すると5ラウンドを終えたコーナーでセレス小林こと小林昭司会長から「自分のボクシングを思い出そうよ」と声をかけられた。

「小國選手は効いていて、もうあれしかない状況。その相手に付き合う必要はない。練習してきたことをもう1度やろうと」(小林会長)

 迎えた6ラウンド、距離を取り直した岩佐は、やや後ろ重心で小國を誘い込み、カウンターの的中率を再び高めると、コンビネーションの回転を上げる。展開は一方的になり、小國陣営がタオルを投げ入れるタイミングを計る中、ヘッジペス主審が先に小國を救った。

「イギリスの完全アウェイでやってきて、(兵庫・赤穂市出身の小國に対し、千葉・柏市出身の岩佐にとっては)今日も大阪でアウェイと言われていたのですが、まったく感じなかった」という小林会長の言葉に岩佐もうなずく。実際、2年前の舞台となったイギリスのブリストルは、岩佐が挑んだIBFバンタム級王者のリー・ハスキンス(イギリス)の生まれ故郷で、正真正銘のアウェイ。ハスキンスへの大音量の声援が絶え間なくとどろき、コーナーではお互いの話す声が聞こえなかったというのだから、大阪で小國サイドの声援が大多数を占めるとはいえ、意に介すことはなかっただろう。

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著者プロフィール

1973年生まれ。東京都出身。『ボクシング・ビート』(フィットネススポーツ)、『ボクシング・マガジン』(ベースボールマガジン社=2022年7月休刊)など、ボクシングを取材し、執筆。文藝春秋Number第13回スポーツノンフィクション新人賞最終候補(2005年)。東日本ボクシング協会が選出する月間賞の選考委員も務める。

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