送りバントは“消えゆく戦術”なのか!? MLBで激減する理由を探る
5月2日(現地時間)にバントを決めるヤンキースのヘドリー 【写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ】
先月のことになるが、筆者がゲスト出演した『スポナビライブMLB』で、こんな“珍しい”シーンに出くわした。5対3と2点をリードしたカブスの8回表の攻撃。無死一塁から打席に入った6番のアレックス・アビラ捕手がカウント1ストライクからの2球目をバントして、走者を二塁に進めたのだ。
アビラはその前の打席で本塁打を打っており、『ESPNスタッツ&インフォメーション』によると、今季のメジャーで1試合に本塁打と犠打を記録した捕手は2人目だという。これは確かにレアだ。だが、実は今のメジャーリーグでは犠打、すなわち送りバントそのものがレアになっている。
1試合平均で1チームわずか0.21
記事によれば、昨シーズンのメジャーリーグで記録された犠打の数は計1025個。これはその5年前のシーズン(11年=1667個)と比べて大幅に減っており、1試合平均で0.21(1球団当たり。以下、「1試合平均」はすべて同様)という数値は、史上最低だったという。もちろん、これはあくまでも犠打が記録された数であり、送りバントを試みた「企図数」はもう少し多くなるはずだが、それでもメジャーで送りバントが激減しているのは確かだ。
もともとメジャーリーグでは日本ほど送りバントはしないといわれているが、それでは日本プロ野球(NPB)はどうか? 昨シーズンの犠打数は計1367個と、この数だけを見ればメジャーとそう大きな差はないように思える。ただし、全30球団のMLBに対してNPBは全12球団であり、各球団の年間試合数も20近く少ない。そこで1試合平均を算出してみると0.80と、MLBの4倍近い数値になる。
この差はどこから来るのか? 1つは送りバントに対する日米の考え方の違いだ。顕著なのは初回の攻撃だが、日本の場合は先頭打者が塁に出ると、アウトカウントを1つ増やしてでも確実に得点圏に進め、まず1点を取りに行こうとする。これに対してメジャーでは、アウトカウントを犠牲にして走者を得点圏に進めるよりは、打って出ることで走者をためて大量点につなげようと考える。こうした基本的な考え方の違いが、根底にあるのは間違いない。
1954年は昨年の2.6倍だったが
その後もおおむね0.4台中盤から後半ぐらいの数値で推移していた1試合平均犠打が0.40まで下がるのは73年。前年は両リーグとも似たような数値だったのが、この年はア・リーグが前年の0.48から0.30に大きくダウンしている。これはこの年からア・リーグで指名打者(DH)制が導入され、投手が打席に立つ必要がなくなったことによるものだ。
80年代に入ってしばらくすると0.4を切るのが当たり前のようになり、90年代後半からはほぼ0.3台前半で推移。そして2013年に初めて0.3を切ると、14年は0.28、15年は0.25と下がり、前述のとおり昨年は史上最低の0.21にまで下がった。
では、メジャーリーグでここまで急激に犠打が減ったのはなぜか? 先に紹介したAP通信の記事では、無死一塁のほうが1死二塁よりも得点の可能性が高いとする「セイバーメトリクス(野球統計学)の影響が大きな理由」としている。