ドイツで感じた関根貴大の“大物感” ライター島崎の欧州サッカー見聞録(1)

島崎英純

物おじしない性格で、すっかりチームの一員に

“実力で立場を勝ち取る”タイプの関根選手。海外でのチャレンジは性に合っているのかもしれません 【写真:アフロ】

 結論から申し上げますと、関根選手は平然とした佇まいでコミュニティーに溶け込んでいました。

 そういえば、彼は18歳で浦和ユースからトップチームへ昇格を果たしたときも、周囲の環境に物おじしていなかったんです。人見知りなので、シーズンイン直後のキャンプ開始から数日は1人でポツンと食事をしていましたが、練習試合に出場して、いきなりハットトリックをしたら、先輩選手の方から関根選手へ話し掛けていました。まさに“実力で立場を勝ち取る”ことを地でいくプレーヤーだったので、今回のような海外でのチャレンジは彼の性に合っているのかもしれません。

 またインゴルシュタット04には今年、U−23チームからトップチームに昇格して正式にプロ契約を締結した渡辺凌磨選手が在籍していて、チーム内で日本人同士が交流を図れることも懸念を払拭(ふっしょく)した理由かもしれません。渡辺選手よりも、1つ歳上の関根選手はさっそく先輩風を吹かせているようでしたが、2年間のドイツ生活を経て大人の雰囲気を漂わせる渡辺選手は、むしろ余裕しゃくしゃくで“先輩”をあしらっていて、もしかするとお互いに相性が良いのかもしれません。

 そんな関根選手は合流直後の現地時間8月20日のブンデスリーガ2部、第3節のヤーン・レーゲンスブルク戦に途中出場したのですが、チームは悔しい逆転負け(2−4)。これで今季のシーズン開幕からリーグ戦3連敗を喫し、クラブはマイク・バルプルギス監督を解任し、急きょU−21チームで監督を務めていた39歳のシュテファン・ライトル監督がトップチームの指揮を執ることになりました。

漂わせる大物感は「流石」の一言……

関根選手は浦和に加入してからの約3年半をペトロヴィッチ監督の下で過ごしました 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 指揮官の交代は選手にとって、大変難しい状況に立たされることを意味します。レギュラーを保証されず、全ての選手が同じスタートラインに立って、一からチーム内競争が始まるからです。しかも関根選手は浦和に加入して以降、ペトロヴィッチ監督の下で約3年半の研鑽(けんさん)を積んできたわけで、シーズン途中での監督交代は彼自身、ほぼ初めての経験……。と思ったら、いきなり本人に否定されてしまいました。

「いや、僕はこれまでのプロ生活で、すでに4人の監督の下でプレーしてきましたから。ミシャさん、その後の堀(孝史)さん、そして今回のバルプルギス監督とライトル監督。ほら、4人でしょ? ただ、この交代は約1カ月の間にあった出来事ですけどね。えっ? それじゃあ(監督交代を)経験していないに等しい? いやいや十分経験しました。もう僕は経験豊富です」

 やっぱり物おじしないんですね。この大物感を漂わせる所作は流石(さすが)の一言。僕よりかなり歳下の彼ですが、その心根は僕なんかよりよっぽど大人です。

力強い言葉を受けて、今後への期待が高まります

1対1での勝負が持ち味だった関根選手にとって、ブンデスリーガは絶好の環境になるはずです 【Getty Images】

 ただ、そんな関根選手もドイツと日本のプレースタイルの違いにはやはり驚いたようです。

「いろいろな方から聞いていたので覚悟はしていたつもりなのですが、やはりドイツはボールホルダーへのアプローチが速くて強いと感じました。ボールを受けると、瞬間的にバーンと来る感じ。これはJリーグでは味わったことのない感覚で、しかも味方選手もあえてボールホルダーをフォローせずに、各ポジションで構えている。

 つまりボールを保持した者は、まず対面の相手と勝負して勝たなきゃいけない。味方が近づいてきてコンビネーションプレーをするような形は作れないし、こっちの選手にもそんな考えはない。それは実際にピッチに立って初めて分かったことです。ただ、今後はそのスタイルに慣れればいいわけで、その勝負に勝つ自信は、もちろんあります」

 Jリーグの舞台で戦っていた関根選手は相手との1対1で果敢に勝負することを旨としていました。ならば、ドイツサッカーは彼にとって絶好の環境になるはず。本人の力強い言葉を受けて、今後への期待が一層高まりました。関根選手、バイエルン地方の悠久の古都で目いっぱい頑張っています。まずは彼のりりしい姿を見られて一安心、心も晴れ晴れ。
 
 さて、これからしばらく、僕のヨーロッパでの”修行”の日々をつづるコラム、エッセイを『スポーツナビ』で連載させていただきます。皆様、どうか穏やかな心持ちで本連載と接していただけると幸いです。よろしくお願いいたします!

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著者プロフィール

1970年生まれ。東京都出身。2001年7月から06年7月までサッカー専門誌『週刊サッカーダイジェスト』編集部に勤務し、5年間、浦和レッズ担当記者を務めた。06年8月よりフリーライターとして活動。現在は浦和レッズ、日本代表を中心に取材活動を行っている。近著に『浦和再生』(講談社刊)。また、浦和OBの福田正博氏とともにウェブマガジン『浦研プラス』(http://www.targma.jp/urakenplus/)を配信。ほぼ毎日、浦和レッズ関連の情報やチーム分析、動画、選手コラムなどの原稿を更新中。

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