“TBE”メイウェザーが残した足跡 最後まで論議を巻き起こす最強王者

杉浦大介

“The Best Ever(史上最高)”を好んで使用するフロイド・メイウェザーJr. 【Getty Images】

 現地時間8月26日にコナー・マクレガー(アイルランド)との復帰戦を控えた無敗の5階級制覇王者フロイド・メイウェザーJr.(米国)は、“TBE”というキャッチコピーを好んで使用する。

“TBE”とは、“The Best Ever(史上最高)”の略。そのキャリアを振り返ってみると、メイウェザーの足跡には確かにボクシング史上最高級と思える面が少なからずある。

唯一の無敗5階級制覇を達成

プロでの49勝の中には、パッキャオ(写真右)やデラホーヤといった、トップ選手との激突もあった 【Getty Images】

 1996年のアトランタ五輪男子ボクシングフェザー級で銅メダルを獲得し、プロでも通算49連勝(26KO)無敗。1998年にスーパーフェザー級の王座についたのを皮切りに、ライト、スーパーライト、ウェルター、スーパーウェルター級の5階級を制してきた。

 世界タイトル戦では通算26戦全勝(10KO)。その過程で、オスカー・デラホーヤ(米国)、マニー・パッキャオ(フィリピン)、ミゲール・コット(プエルトリコ)、サウル・“カネロ”・アルバレス、ファン・マヌエル・マルケス(ともにメキシコ)といった現代のトップファイターたちを下している。

 過去、5階級制覇(※暫定王者は除く)はシュガー・レイ・レナード、トーマス・ハーンズ(ともに米国)、6階級制覇はデラホーヤ、パッキャオが成し遂げているが、無敗のまま5階級を制したのはメイウェザーだけ。プロ入り以来、20年以上も無敗記録を保てたのは、類いまれなスピードとディフェンス技術があればこそ。自らの長所を最大限に生かし、ヘビー級の巨星ロッキー・マルシアノ(米国)が残したデビューから49戦全勝という記録にも並んだ。

「他の選手たちのことを気にしたことはないけど、僕をこの位置にまで導いてくれたすべてのファイターたちに感謝している。マルシアノは彼のやり方でレジェンドになった。俺はメイウェザーのやり方でそうなりたいんだ」

 マクレガーとのカムバック戦を前に、17日の電話会見でメイウェザーはそう述べていた。基本的に守備的な選手ながら、その戦い方を究め、2015年までに3度、スポーツ選手長者番付でNo.1に立つというドル箱選手になったことは特筆に価する。残した実績は間違いなく現代最高級であり、引退から5年後にはボクシングの名誉の殿堂入りを果たすことも間違いあるまい。

“善玉”時代から“金の亡者”へ

今回の試合に向けてのプレスツアーでは“金の亡者”らしく、紙幣をばらまくパフォーマンスも 【Getty Images】

 もっとも、これほど輝かしいボクシング人生を過ごしながら、メイウェザーは突っ込みどころの多い選手でもある。

 能力、戦績の素晴らしさは誰もが認める一方で、素行の悪さと微妙なマッチメイクを批判されることも多かった。そんなメイウェザーのプロキャリアは、端的に言って、“プリティボーイ(善玉)”時代と“マネー(金の亡者)”時代に分けられるのだろう。

 スーパーフェザー級、スーパーライト級でヘナロ・エルナンデス、ディエゴ・コラレス(ともに米国)、アーツロ・ガッティ(カナダ)らにストップ勝ちした頃のメイウェザーは、スピード豊かで独創的なスタイルとともに、“プリティボーイ”という口当たりの良い愛称で多くのファンから親しまれるスーパースターだった。

 しかし、06年にトップランクとの契約をバイアウトし、強力アドバイザーのアル・ヘイモンに傾倒して以降はビジネスマン色を強めていく。世界的な注目を集めた07年のデラホーヤ戦を凡戦ながら制したあたりで、メイウェザーは“マネー”を自称するようになる。この頃から、カードの質、試合内容でファンを喜ばせるより、慎重に相手を選び、リング上でもリスクを徹底的に避け、無敗記録を守ることに専心するようになっていった。

 全世界が待望したパッキャオ戦も、相手が衰えた15年にようやく実現させた。時期を選び、話題性を膨らませることで、実に2億5000万ドル(約273億円)以上という途方もないファイトマネーをゲット。このように“ローリスク・ハイリターン”にこだわった手法を賢明と見るか、最強王者らしくないと捉えるか。

 その答えは真っ二つに分かれるのだろう。重要なのは、“多くのファンは傲慢(ごうまん)な無敗王者が負けるところを見たがっている”という事実をメイウェザーは認識していたことだ。アンチの多さも商品価値の一部。毀誉褒貶(きよほうへん)の激しさをビジネスに生かす潔さがあったがゆえに、メイウェザーは史上最も興行力のある選手になったのである。

自身のやり方を貫き、幕引きを見定める

2度の引退を経験しているメイウェザー。3度目の引退が、本当の幕引きとなるのか 【Getty Images】

「(アドバイザーの)アル・ヘイモン、子供ともすでに話した。約束は破りたくはない。今回が最後の試合だ。終わりが来たときは分かるもの。身体が限界に達したときは分かるものなんだ」

 メイウェザーはそう語り、マクレガー戦が最後の一戦になることを繰り返し明言してきた。07、15年とすでに2度に渡って引退し、そのたびに撤回しているだけに、まだ分からないという見方もある。15年9月の前戦でも“ラストファイト”と銘打つことで盛り上げを図ったのだから、今回もその言葉をうのみにすべきではないのだろうか。

 ただ……その一方で、依然として童顔のメイウェザーもすでに40歳。自然と押し寄せる体力の衰え、無敗記録への異常なまでのこだわりを考えれば、ここで身を引く可能性が高いのかもしれない。

「正直に言うけど、俺はもう21年前と同じフロイド・メイウェザーではない。10年前と同じでもない。いや、2年前の俺と同じですらないだろう。ただ、今でも高いリングIQを持っているし、頼ることができるだけの経験がある」

 本人は謙虚な言葉を残しているが、マグレガー戦はメイウェザーが絶対有利と目されている。いかにMMAのスーパースターとはいえ、マクレガーはボクシングでは0勝0敗。完全なボクシングルールでの12回戦であれば、ボクサーに分があるのは当然である。序盤はマグレガーが玉砕戦法で見せ場を作っても、すぐにメイウェザーの一方的なペースに落ち着くのではないか。

 こうして圧倒的に有利と目される相手との対戦の際、その商品価値を上げようとするのもこれまでのメイウェザーの常とう手段だった。あおり、圧勝し、大きく傷つかずに大金を稼ぐ。“マネーマシーン”とでも呼ぶべき歯車を作り上げてきた。ボクシングでは実績ゼロの選手を相手に1億ドル(約109億円)以上の巨額を受けとると見られる今戦は、メイウェザーが打ち立てたブランドの究極の形なのだろう。

 一部から痛烈に批判されようと、今戦に勝った後、50戦無敗というメイウェザーのレコードは燦然(さんぜん)と輝き続ける。打ち立てた数々の興行記録はしばらく破られることはあるまい。自身のやり方を貫き、最後まで論議を呼び続けたまま、現代の最強王者はその波乱のキャリアに間もなく幕を引こうとしている。
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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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