初優勝の花咲徳栄が重視した先手必勝 全国で勝つための打撃強化が花開く

楊順行

決勝で29安打飛び交う打撃戦を制して初優勝を飾った花咲徳栄。埼玉県勢として夏の優勝は初めてのことだった 【写真は共同】

 俳人・正岡子規の未発表の5句が見つかったという。この夏の大会本塁打は、従来の60本を大幅に更新する68本だった。

 野球を愛し、殿堂入りもしている子規なら、「ホームラン」あるいは「金属音」を夏の季語にしたかったもしれない。決勝はホームランこそなかったものの、花咲徳栄(埼玉)が16安打、広陵(広島)が13安打という活発な打撃戦で、花咲徳栄が初優勝を果たした。

 岩井隆監督は言う。

「相手の強力打線vs.ウチの投手という図式。ピッチャーがどれだけ抑えるかがポイントでした。また相手ピッチャーがかわすタイプなので、打線は踏み込んで低い打球を打とう、と」

ハンマートレーニングで打力向上

 それにしても、徳栄打線は力強い。6試合でチーム打率3割5分1厘。総得点は61と、1試合平均10点を超える。この強力な打線、実はひとつの敗戦からスタートしている。昨秋の関東大会。チームは1回戦で、慶応(神奈川)にコールド負けした。1対9、わずか4安打。打撃が課題なのは明らかだった。

 さらにその前、夏の甲子園では作新学院(栃木)に敗退し、「2015年夏も、優勝した東海大相模(神奈川)に負けています。つなぎの野球にプライドを持っていましたが、全国に勝つには破壊力もないと」と岩井監督は痛感してもいた。

 そこで11月から採り入れたのが、金属製の重いハンマーを振り下ろすトレーニングだ。10〜15キロのハンマーを、タイヤめがけて思い切り振り下ろす。それを50本×5セット、ときには10セット。

「ヒジから先、手首、握力、終わったときにはヘロヘロになります。しかも全身を使わないと振り下ろせないので、下半身も自然と鍛えられた」(高井悠太郎三塁手)

 冬の間これを続けた結果、春になると「ヒジから先をうまく使えるようになった」(高井)、「左手を押し込む力がついて、飛距離が伸びた」(西川愛也左翼手)。

埼玉大会4回戦からすべて先攻

先手必勝を重視した花咲徳栄。決勝も初回に西川のタイムリーで2点を先制した 【写真は共同】

 さらに、岩井監督が重視したのは先制パンチだ。実は徳栄、実力差のある3回戦までは別として、埼玉大会の4回戦からすべて先攻を取っている。

「まずは先手先手で攻めようと。それと埼玉では3、6回の2度、グラウンド整備があります。先攻ならピッチャーがその間休めますから、それを使わないテはない」(岩井監督)

 先制パンチ実現のためには、昨夏の甲子園から秋まで1番を打っていた千丸剛を、今春から2番にした。好打者の3番・西川とセットにすることで、得点力が増すという考えだ。その“先攻主義”は、甲子園でも続く。野球というゲームは本来は後攻が有利といわれるが、徳栄は優勝までの6試合、すべて先攻。そしてそれが、ものの見事に機能したのだ。

 たとえば開星(島根)との初戦。1回表に太刀岡蓮が二塁打で出ると、千丸が送ったあと西川が先制タイムリー。日本航空石川(石川)との2回戦、太刀岡の四球から始まって、高井の二塁打などで初回に5点。前橋育英(群馬)との3回戦も、ヒットで出た千丸を西川が二塁打で還すなど計4点。

 そして決勝のこの日も、太刀岡、千丸、西川の3連打で2点と、6戦中4戦で初回に先制している。結局徳栄がこの大会で相手にリードを許したのは、準々決勝・東海大菅生戦(西東京)の1〜3回だけなのである。まさに、先手必勝だ。

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著者プロフィール

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。高校野球の春夏の甲子園取材は、2019年夏で57回を数える。

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