初優勝の花咲徳栄が重視した先手必勝 全国で勝つための打撃強化が花開く

楊順行

広陵・中村が達成した数々の記録

1大会個人最多6本塁打、17打点を記録した広陵・中村。今夏の高校野球を盛り上げた 【写真は共同】

 ただ決勝の相手・広陵には、超スーパースラッガー・中村奨成がいる。先制した初回にも、先発・綱脇慧が痛烈な二塁打を浴び、5回には代わり端の清水達也が内野安打を許す。だが、岩井監督にとっては想定の範囲内だったようだ。

「中村君には、3打席対戦したら確実にやられます。ホームランを打たれると広陵は乗ってきますから、綱脇と清水を継投し、それぞれ2回ずつの対戦でヒットを打たれるのはOKだと考えました。そして逆に、中村君を抑えればウチに流れがくる」

 事実、綱脇は3回に中村からこの大会初の三振を奪い、清水も7回の打席で三振に切って取った。広陵と中村については、”中村に新怪物誕生の予感”などとして17日のこのコラムでも触れているから、多くの文字は費やさない。

 ただ、この空前絶後の高校球児が、

・1大会個人最多本塁打 6
(手前味噌ながら、従来記録の清原和博の5本とともに、すべて現場で見ています)
・1大会個人最多打点 17
・1大会個人最多塁打 43(準決勝での自身の記録を更新)

 のほかに、決勝でも、

・1大会個人最多安打タイ 19
・1大会個人最多二塁打タイ 6

 を達成し、こと打撃の記録に関して手の届かない領域に達したことを記しておく。

望む富士山――校歌どおりの頂点へ

試合前に「富士登山と一緒で、1球1球が頂上への1歩1歩だ」と話したという花咲徳栄・岩井監督。試合後、満面の笑みで選手から胴上げされた 【写真は共同】

 試合は「どんな展開になるかわからない。ただ、ミスが出たら負けます」と広陵・中井哲之監督が話すように、5、6回にミスが絡んだ広陵が大量失点し、大勝した徳栄が埼玉県勢として初めて夏の頂点に立った。

 優勝のお立ち台で、岩井監督が言う。 

「試合前は、富士登山と一緒で、1球1球が頂上への1歩1歩だと話しました」

 そういえば……花咲徳栄の校歌は1番から4番まで、それぞれの歌詞が春夏秋冬をイメージしたものだ。「ですからセンバツに出たときは春にあたる1番を、夏は2番を歌うんです」と教えてくれたのは捕手の須永光だ(なかなかいい歌です。検索して聴いてみてください)。

 そして夏にあたる2番は”望む富士山 われらをいざなう”から始まる。徳栄ナインは、岩井監督がいうように、校歌にあるように、頂点を目指す山を登ったというわけだ。

 その2番の締めくくりは、”夏の花咲徳栄高校”。

 2017年、夏。優勝は、花咲徳栄高校――。

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著者プロフィール

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。高校野球の春夏の甲子園取材は、2019年夏で57回を数える。

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