シャペコエンセに寄り添うJのサポーター スルガ銀行杯は「忘れられないゲーム」に
「救われた瞬間」を演出した浦和サポーター
シャペコエンセのゴール裏には、墜落事故の犠牲者が所属していたJクラブサポーターの姿も 【宇都宮徹壱】
そんなシャペコエンセを「救った」のが、浦和のサポーターたちであった。ちょうど浦和の選手たちが優勝トロフィーを掲げた直後のこと。浦和のゴール裏に、シャペコエンセのクラブカラーであるグリーンのコレオグラフィーが現れる。さらに、ポルトガル語で「もう一度、世界の舞台で戦うことを楽しみにしています。ありがとう、友よ」と書かれた横断幕も掲出された。怒り心頭だったシャペコエンセの選手たちも、これには心底驚き、いたく感動したようだ。何人かの選手たちは浦和のゴール裏に歩み寄り、自分たちのユニフォームを投げ込んで謝意を示した。
それはまさに「救われた瞬間」であった。実はPKの判定から阿部のゴールまでの間、あまりにも試合が中断していたことに業を煮やして、浦和のゴール裏からブーイングが起こっている。ある意味、当然の反応であった。それでも試合が終われば、自分たちのクラブカラーとは関係ない(むしろあまり好きではないと思われる)グリーンのコレオグラフィーを掲げたところに、同じサッカーファミリーとして寄り添おうとする心意気が感じられた。自分たちの勝利を喜ぶだけでなく、悲劇から立ち直った対戦相手へのリスペクトも忘れない。そんな光景が目撃できただけでも、この日の試合を取材してよかったと心底思えた。
この日の入場者数は1万1,002人。ちょうど1カ月前、同じ埼スタで行われたボルシア・ドルトムント戦の5万8,327人と比べると、いささか寂しい数字ではある。だが、Jクラブが南米のクラブに勝利したこと以上の意義が、今回のスルガ杯にはあったのではないか。シャペコエンセのゴール裏では、ブラジル人に混じってC大阪や川崎のサポーターたちも声援を送っていた。いずれも、昨年11月の墜落事故で亡くなった選手たちが所属していたクラブである。サッカーファミリーとして寄り添う姿勢は、スタンドのあちこちで目にすることができた。殊勲の決勝ゴールを挙げた阿部が語ったとおり、今年のスルガ杯はまさに「忘れられないゲーム」となった。