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ガトリンへのブーイングはなぜ起きたのか
ドーピング以外の問題も?

ブーイング以外にもヤジが

ロンドンの観客からブーイングを受けることになった、金メダリストのガトリン。そこにはどんな背景があったのだろうか
ロンドンの観客からブーイングを受けることになった、金メダリストのガトリン。そこにはどんな背景があったのだろうか【写真:ロイター/アフロ】

 現地8月5日、男子100メートル決勝の後、ロンドン・スタジアムは異様な空気に包まれていた。

 ボルトの勝利を信じて疑わなかった人々は、悲しみと怒りの入り混じった表情を選手たちに向けた。

 悲しみは英雄のウサイン・ボルト(ジャマイカ)に、怒りは勝ったジャスティン・ガトリン(米国)に。


 トラックに近い場所で見ていた観客によると、ブーイングだけではなく、「Fワード(いわゆる放送禁止用語)」など侮蔑語、罵詈雑言がガトリンに向かって発せられていたと言う。

 100メートル決勝が行われたのは夜10時近く、ほろ酔いを超えて、悪酔いしている観客も多かった。ボルトが負けた腹いせに、ガトリンに心ない言葉を飛ばした人も多かったのだろう。

2010年に復帰したのになぜ今

メダルを胸に、笑顔で記念撮影をする(左から)2位のコールマン、優勝のガトリン、3位のボルト
メダルを胸に、笑顔で記念撮影をする(左から)2位のコールマン、優勝のガトリン、3位のボルト【写真:ロイター/アフロ】

 ガトリンが復帰したのは2010年。11年のテグ世界陸上から、すべての世界大会に出場している。本人は記憶にないようだが、12年ロンドン五輪、15年北京世界陸上でもブーイングはあった。しかし、その時と今回のものは質が違っていた。

 北京世界陸上の際は、ガトリンの復帰までの背景を知っている観客がブーイングをし、「じゃあ自分も」と面白半分でブーイングした人がほとんどだった。そこに悪意はなかった。


 今回は英国メディアが大会前から、「ドーピングで2回処分されたのに、交渉して復帰した卑怯(ひきょう)な奴」という記事でガトリンを悪役に仕立て上げた背景もある。


 英雄のボルトと、絶対悪のガトリン。


 決勝には8選手がスタートに立ったにもかかわらず、ボルトvs.ガトリンの様相が大会前から広がっていた。


 レース後の記者会見も異様な雰囲気に包まれた。ボルトが世界大会で負けたのは07年大阪世界陸上以来。さばさばした表情のボルトとは対照的に、納得いかない表情の記者で会見場は溢れていた。

 アイルランドの記者からガトリンに対し「皆、あなたが嫌な奴(悪役)と思っているけれど、自分ではどう思う?」という質問が出ると「自分は社会奉仕も積極的に行っているし、悪い奴、と言われるようなことはしていないと思う」と反論。質問した記者はガトリンの剣幕と周囲の記者からの冷たい視線に居心地が悪くなったのか、大柄な記者の後ろに隠れていた。


 ガッツのある記者は彼だけではなく、ブラジルのテレビ局の記者は「今レースの記録がとても低調ですが、それはドーピングに関連していると思いますか?」という質問で周囲をあぜんとさせた。

 あまりの不躾(ぶしつけ)さにボルトが「は??? ちょっと待って、ちょっと待って。え? なんだ、その質問」と応じると、その記者はボルトが質問を理解できなかったと受け取ったのか、再び同じことを繰り返した。

 一つ大きく息をして、ボルトはこう答えた。


「その質問は失礼じゃないか。コンディションなどもタイムに関係してくるのに、タイムが悪い=ドーピングしていない、と結びつけるのはオレたちへの敬意がない」


 初めてボルトが声を荒げた姿を見た。


 いずれにしてもガトリンが勝ったことで、これまでにはない質問が飛び交い、とても後味の悪い会見になった。


 表彰式もザラリとした感触が残った。

 米国国歌が流れた際に、席を立たずに座ったままの人たちが何人かいた。彼らなりの抗議の姿勢なのだろう。しかし2位のクリスチャン・コールマンも米国人。ガトリンへの抗議の気持ちは分からなくもないが、コールマンへの敬意に欠けているとも感じた。

及川彩子
米国、ニューヨーク在住スポーツライター。五輪スポーツを中心に取材活動を行っている。(Twitter: @AyakoOikawa)

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