札幌加入の「タイのメッシ」にかかる期待 能力は折り紙つき、J1で輝けるか

本多辰成

計り知れない「チャナティップ効果」

タイでは国民的存在。実力のみならず、愛らしいルックスそのままの愛嬌や人間性も人気を支えている 【(C)J.LEAGUE】

 インスタグラムで200万人近いフォロワーを持つなど、タイにおけるチャナティップの人気はまさに「国民的」なもの。実力とプレーに魅力があるのはもちろんだが、愛らしいルックスそのままの愛嬌や人間性も人気を支えている。ファンサービスも徹底しており、いつまでも残ってサインをし続ける姿がタイリーグ時代はおなじみだった。

 そんな国民的存在のJリーグ移籍に、タイでは大きな関心が寄せられている。昨年12月の移籍発表時から注目度は高く、来日後はさらに高まっている。現地メディアではインタビューやトレーニングの様子などが連日ライブ配信されており、Jリーグの公式タイ語Facebookページで配信された初練習の模様は100万回を超える視聴回数を記録した。

 チャナティップの札幌入りを機に、タイの大手放送局トゥルー・ビジョンではJリーグ放送がスタートしており、地上波でも数試合が放送されることが決定。Jリーグ国際部の小山恵氏は「視聴可能世帯数140万のプラットフォームで放送されるのは大きい。かなり大きな露出拡大とJリーグ人気の向上が見込まれ、将来的に海外放映権料の増大にもつながる」とチャナティップ効果の大きさを語る。

 22日にタイで行われたムアントンと札幌の親善試合では、会場で札幌のグッズが販売されて好評を博した。現地での本格的なグッズ販売に向けてテストマーケティングがすでに開始されており、今後の成長分野となる可能性を秘める。さらに、タイの複数の企業が観戦ツアーを企画しており、Jリーグ観戦を軸としたスポーツツーリズムのモデルケースとなることも期待されている。

 サッカーでも経済でも急速な成長を遂げるタイ。日本政府観光局によれば16年に訪日したタイ人は90万人を超え、今や中国、韓国、台湾、香港、米国に次ぐ世界第6位の市場となっている。その意味でも、チャナティップがJリーグにもたらす効果は計り知れない。

東南アジア選手のパイオニアに

「パイオニア」となる覚悟で海を渡ってきたチャナティップ。「自分が頑張らなければいけないし、自信はあります」と語る 【(C)J.LEAGUE】

 とはいえ、チャナティップが実際にJリーグで活躍できなければ全ては尻すぼみに終わってしまう。一般的に「内弁慶」と言われるタイ人の気質もあって、適応の面で危惧する向きもあったが、今のところ順調にきているように見える。前所属クラブのムアントンから派遣された日本語通訳やなじみの記者らが札幌に常駐していることも、環境への順応を助けているのだろう。

 Jリーグは今季、「Jリーグ提携国(※)の国籍を有する選手は外国籍選手ではないものとみなす」という思い切ったルール改正に踏み切った。タイはJリーグ提携国であるため、チャナティップは「外国人枠」でも「アジア枠」でもなく日本人選手と同じ扱いとなる。

 チャナティップが本来の実力を示せば、このレベルの選手を「日本人扱い」で起用できることのメリットがリーグ全体に一気に浸透していくことは想像に難くない。Jリーグとしても「彼が活躍すれば、さらに多くの東南アジアの選手がJリーグにやってくる流れができる」(小山氏)と期待は大きい。

 チャナティップ自身も、「パイオニア」となる覚悟で海を渡ってきた。

「自分がJリーグで活躍することによって、他のタイ人選手も注目されることになると思います。日本代表は多くの選手が海外でプレーしていますが、タイ代表はまだほとんどが国内でプレーしている状況。今後、タイ人選手も海外でプレーできるようになるためにも自分が頑張らなければいけないし、自信はあります」

 チームのJ1残留、Jリーグ「アジア戦略」の行方、タイサッカーの未来……。さまざまなものを背負って、「タイの至宝」がいよいよJ1デビューの時を迎える。

※Jリーグ提携国:タイ、ベトナム、ミャンマー、カンボジア、シンガポール、インドネシア、イラン、マレーシア、カタール(17年6月22日時点)

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著者プロフィール

1979年生まれ。静岡県浜松市出身。出版社勤務を経て、2011年に独立。2017年までの6年間はバンコクを拠点に取材活動を行っていた。その後、日本に拠点を移してライター・編集者として活動、現在もタイを中心とするアジアでの取材活動を続けている。タイサッカー専門のウェブマガジン「フットボールタイランド」を配信中。

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