瀬戸大也“けがの功名”が導いた銅メダル 不調のバタフライで「最低限」の結果
完全アウェーの中での銅メダル
200メートルバタフライでは自身初のメダル獲得となった瀬戸大也 【Getty Images】
4番手を泳ぐ瀬戸大也(ANA)が追いかけていたのは、2012年ロンドン五輪金メダルのチャド・ルクロス(南アフリカ)と、地元ハンガリーの英雄2人、リオデジャネイロ五輪銅メダルのタマーシュ・ケンデレシと、大ベテランのラースロー・シェーだ。
瀬戸がケンデレシをかわして3位でゴールにタッチした瞬間、“ハンガリーのお家芸”を一目見ようと会場を埋め尽くした地元の大観衆が、悲鳴に近い歓声を上げた。中にはケンデレシが瀬戸に負けた事実を受けてか、頭を抱えている者もいた。
レース後に「泳いでいる中でも歓声はめちゃくちゃ聞こえたし、今までの大会で今回が一番聞こえる」と語った瀬戸。両サイドのレーンをハンガリー選手が泳ぐ完全アウェーの中、瀬戸は1分54秒21で銅メダルを獲得した。
大会直前に手痛いアクシデント
過去3年間、夏季の国際大会の前には必ず高地合宿を経ていた瀬戸。しかし今季はあえて高地へ行かず、多くの試合に出場しながら調整に励んだ。「昔の爆発力を取り戻したい」というのがその理由だ。高地合宿をせずに臨んだ4年前のバルセロナ大会で、驚異的な爆発力を発揮して金メダルを獲得(400メートル個人メドレー)したのを意識してのことだった。
しかし、大会直前に臨んだカネ(フランス)合宿で首を痛め、その影響でバタフライを泳ぐ時だけ肩に痛みが出るようになっていた。バタフライはリオ五輪後「しっくりこない」と不調にあえいでいた課題種目でもあっただけに、手痛いアクシデントだった。
バタフライに不安を残したまま迎えた今大会。瀬戸は「肩の調子を気にしながら泳いだ」という200メートルバタフライ予選で「思っていたよりもタイムが良かった」と手応えを得ると、準決勝後には「すごく調子が良い」と手応えは確信へと変わった。「7〜8割(の力)で泳いだ」という準決勝でのタイムは、自己ベストとなる1分54秒03。「決勝で面白いレースができる」と自信をのぞかせた。
復調の裏には“けがの功名”があったと本人は分析する。
「肩が痛くならないようリカバリー(水上で腕を前に持ってくる動作)や腕のキャッチを意識して泳いだら感覚が良かった。神様がそこ(=痛めた箇所)を意識して首をフラット(平行)に泳げと言っているのかもしれない。久しぶりにバタフライで体が浮いて楽に泳げています」
首の痛みがある上に、昨年のリオ五輪ではメダル候補と言われながらも5位に終わった種目なだけに、マイナスイメージが脳裏をよぎってもおかしくない。しかし、今の瀬戸には、大舞台を楽しむ気持ちに余裕があった。
得意の個人メドレー2種目でもメダルを
故障のためバタフライに不安を抱えていたが、メダル獲得に至ったのはけがの功名だったという 【写真は共同】
「調子が良かった準決勝のイメージで入りたかったので、前半落ち着いて入ったのですがスローペース過ぎましたね。金(メダル)を逃したというよりも、タイムが(準決勝より)落ちたし、(狙っていた)53秒台が出せなくて自分に負けた感じがして残念です」
力を出し切れなかった自分を悔やんだ瀬戸だが、視線はすでに次を見据えている。
「メダルは取れたので最低限は良かったと思います。(続く)個人メドレーは得意種目なので、これ以上のメダルを目指したいです」
まずは伸び悩んでいた種目でメダルを獲得した。この後には専門とする個人メドレーの2種目(200メートル、400メートル)が控えている。瀬戸の複数メダルの可能性も十分に見えてきた。
(取材・文:澤田和輝/スポーツナビ)
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