連敗中に中村悠平が見せたリーダーシップ 〜燕軍戦記2017〜

菊田康彦

ヤクルトは7月22日の阪神戦で長い連敗を脱した 【写真は共同】

 長い長いトンネルから、ようやく抜け出した──。7月22日の阪神戦に6対2で勝利し、球団記録でありセ・リーグ記録でもある「16」に肉薄していた連敗を「14」で止めた東京ヤクルト。これが6月30日の阪神戦(甲子園)以来の白星となったが、本拠地・神宮での勝利となると6月23日の横浜DeNA戦以来。試合後に一塁側のファウルラインに並び、神宮のスタンドを埋めたファンの歓呼に応えるナインの姿を見るのは、ほぼ1か月ぶりのことだった。

主軸のベテラン勢が不在のなか…

 その中には、前日の試合後に「これが現実なんで、逃げずにやっていくしかない」と話していた正捕手・中村悠平の笑顔もあった。右大腿骨骨挫傷のために6月15日付で出場選手登録を抹消され、7月4日に1軍復帰を果たした彼にとっては、それから14試合目にして初の勝利。苦しい道のりではあったが、得たものもあったという。

「自分の中で一つ殻を破れたかなと思います」

 その3日前、DeNAに敗れて連敗が「13」まで伸びた7月19日のこと。中村はある行動に出ていた。

「次の日(20日)が休みだったんですけど、『連敗中だし、みんなで練習したほうがいいんじゃないですか』って提案したんですよ。いろんな事情でそれはできなかったんですけど、試合後に野手だけ集めて僕のほうから話をしたんです。『みんなでこの現実をしっかり受け止めてやらなくちゃいけないし、本当に連敗を止めようと思ってやっているのはわかるんですけど、それだけじゃゲームに勝てない。明日は休みになりますけど、明後日(21日)どうやって試合に入っていくか、みんなで高い意識を持ってやりましょう』って」

 福井商高からドラフト3位で入団して、今年でプロ9年目の中村だが、自らミーティングを招集するのはこれが初めて。

「ずっと言われてはいたんですけど、なかなか行動に移すのが難しいというか……。僕もどちらかというと自分から言うタイプではないですから」

 かつては宮本慎也(現野球評論家)や相川亮二(現巨人)、昨年までなら畠山和洋、大引啓次といったベテランが、こういう時には選手を集めていた。しかし、宮本も相川もチームを去り、畠山と大引は現在は故障のために戦列を離れている。

 なんとかしないといけない──。畠山と大引のみならず、川端慎吾、雄平、さらには守護神の秋吉亮といった主力を故障で欠く中、強い責任感の芽生えた中村の背中を押したのは、三木肇ヘッドコーチだった。

中村だから「説得力がある」

「何か選手同士でできることはないかっていうことで相談を受けたんで、『思うことがあるんやったら、みんなの前で話してみたら』って言ったんですけど、ちょっとうれしかったですね。これから(畠山や大引ら)経験のある選手が帰って来ても、あいつがしっかり引っ張ってくれたらいいなと思うし、そういう話もしました」

 現在の1軍メンバーには、千葉ロッテから移籍してきた野手最年長の大松尚逸、あるいは生え抜き野手最年長の武内晋一や飯原誉士らのベテランもいる。だが、中村より3つ年上で、今季はファーストの準レギュラー的な存在の荒木貴裕はこう話す。

「本来ならもっと上の人が言うべきなんでしょうけど、中村みたいにレギュラーで出てる選手が言うほうが説得力もあると思います。まだ若いですけどしっかりしてますし、これから上に立っていく人間だと思うんで、そういうことを言える選手だと思うんですよ。あいつなら『こいつに言われてもなぁ』って思う選手はいないですし、言うべき選手が言ったっていう感じですかね」

 ミーティングの翌日、休日返上で練習に汗を流した野手は中村1人ではなかった。

「けっこう何人も来ていて、みんな考えてくれていたし(ミーティングは)無駄じゃなかったのかなって、うれしい気持ちはありましたね」(中村)

 それが連敗ストップにつながったというのは短絡的かもしれない。それでも荒木は「みんな少なからず心に響くものはあったと思いますし、結果はともかくそれによって個人個人でいろいろ考えたことはあると思います」と言う。

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著者プロフィール

静岡県出身。地方公務員、英会話講師などを経てライターに。メジャーリーグに精通し、2004〜08年はスカパー!MLB中継、16〜17年はスポナビライブMLBに出演。30年を超えるスワローズ・ウォッチャーでもある。著書に『燕軍戦記 スワローズ、14年ぶり優勝への軌跡』(カンゼン)。編集協力に『石川雅規のピッチングバイブル』(ベースボール・マガジン社)、『東京ヤクルトスワローズ語録集 燕之書』(セブン&アイ出版)。

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