トヨタとJFAが生むスポーツの新たな価値 子供の巡回指導で、地域に根ざした存在へ
JFAとトヨタが目指す、これまでにない新たな取り組みの内容とその狙いとは? 【写真は共同】
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JYDを支援する新たな取り組みについて、その狙いをトヨタマーケティングジャパンの石田典子氏、矢島憲二郎氏、そしてJFAの岩上和道事務総長、野上宏志マーケティング部長、同部の林鉄朗、谷島大知各氏それぞれに聞いてみた。(文中敬称略)
地域密着や地域貢献の理念に共感
トヨタはJYDの子供たちと触れ合い、地域に密着し貢献していく活動に共感した 【写真は共同】
「トヨタカップが始まって以来、日本サッカーの発展とともに、トヨタのサッカー支援があったと言っても過言ではありません。一方、トヨタが『FIFAクラブW杯』を最後に協賛を終了された。その時に今後もトヨタと日本サッカー界との深いつながりをより発展させていきたいという、JFA全体の思いがありました。
そこで何か日本サッカーにご支援していただけないかと相談を開始したのが、16年の初めごろです。トヨタは、サッカーを含めいろいろなスポーツの協賛をされているので、スポーツ協賛の中身や仕組みをよくご存知です。JFAの活動をいろいろとご紹介し、キッズ巡回指導もお話させていただいたところ、大変興味を持っていただきました。
実際に視察もしていただき、キッズの巡回指導が日本サッカーの未来につながることを感じていただきました。巡回指導という活動が、お互いの課題を解決することにもなるだろうと。キッズのリーダーになって地域の子供たちと触れ合うことで、子供たちに夢を作っていく。サッカーを通じて地域密着や地域に貢献するというところに、トヨタとしてはすごく共感していただき、この取り組みの可能性を感じていただけたようです」
トヨタクラスの企業にもなると、スポーツの協賛などのアプローチは引きも切らない。なぜトヨタはJYDという新しいプロジェクトに、その中でもキッズの巡回指導に興味を持ったのだろうか。
「今後のトヨタの国内営業はどうあるべきかを真剣に考えた時、これからは販売店がもっと地域に根ざすことが大切だろうと。地域に最大限の貢献をして、『トヨタの販売店』ではなく『うちの街の販売店』と言われるような、街の中でのポジションを築き上げないと、生き残っていけないと考えました」(矢島)
「ただ課題もあって、販売店としても何をやっていいのか分からず、なかなか話が進んでいませんでした。そこでJYDの活動を知り、サッカーの巡回指導ならば、販売店と一緒に活動できるのではないかと考えました」(石田)
前例のないサッカーの普及と販売促進方法
トヨタの石田(左)と矢島。販売店が地域に根ざした存在になる重要性を感じていた 【スポーツナビ】
「とにかく子供が喜んでいました。鹿児島に見に行ったのですが、指導が終わった後、子供たちがコーチのところに集まって、みんな『たかいたかい、して!』と並んでいました。幼稚園は女性の先生が多いので、男性のコーチが来ると、珍しくてすごく喜んでいるんですよね」(石田)
百聞は一見にしかず。石田が室長から販売店のスタッフまで多くの人々を巡回教室の視察に招くと、皆、一様に感動を覚えたという。そこから急速に話が進み、5月のパートナー契約締結へと発展した。
圧倒的なのはその規模感だ。トヨタともなれば、その国内ネットワークは桁違いである。現在、全国にあるトヨタの販売店376社に対して巡回指導への参加案内が説明され、プロジェクトが着々と進んでいる。17年度は目標としてまず「100社の参加」を掲げている。これが実現すれば、JFAとして「JFA公認キッズリーダー」のライセンス取得者が一気に増えることになる。サッカーの普及方法という観点からも、過去に前例がなく、その影響は計りしれない。矢島はこう話してくれた。
「純粋に子供のスポーツに目を向けて取り組んでいます。ただ、やはり販売店が地域や町一番の会社になるということは、回りくどいとはいえ、販売促進にもつながります。車を販売する会社が街や地元に根づくということは、生き残っていくために非常に大切なことです」
日本では男女とも小学生年代でスポーツをする人数が減少傾向にあり、現在における社会課題のひとつだ。20年に東京五輪・パラリンピックを開催する国なのに、スポーツを全くしない子供が年々増加している。
保育園や幼稚園といった未就学児童のころからボール遊びをすることで、スポーツの楽しさや喜びを知ってもらう。そうすることで、社会課題を何とか解決したいというJFAとトヨタの思いが、今回のパートナーシップ契約へとつながっていった。
一般的にスポーツにおけるパートナーシップの提携やスポンサードといえば、看板などの広告掲載で終わることがほとんどだが、JYDでのトヨタの取り組みは従来の形とはまったく異なる。サッカーをツールとして「オラが街」の企業としての存在価値を高め、「将来の顧客」を獲得するための新しいアプローチだ。いち企業がスポーツ協会とタッグを組み、共に「地域創成」を目指した挑戦をしていると言えるのかもしれない。
スポーツも企業も、地域の一員として地域に密着し、息の長い活動を行うことによってグラスルーツ(草の根)が形成され、新しい芽が育つ。こういった地道な活動なくして、「少子高齢化」「人口減少」という2つの大きな問題を抱える日本で、フットボール文化が花開くことはない。