変わるJFAのキーマン、田嶋会長を直撃 「世界基準」と「育成日本復活」を目指す

上野直彦

U−20W杯で日本の敗退直後にインタビュー

大きく変わろうとしているJFA。改革のキーマンである田嶋会長を直撃した 【スポーツナビ】

 いま、日本サッカー協会(JFA)が大きく変わろうとしている。

「『世界基準』の実現と『育成日本復活』。就任当初から言っていますが、これが私のミッションです」

 こう語るのは、田嶋幸三JFA会長。改革の最大のキーマンである。2016年1月よりスタートしていた、ユース育成をはじめとするサッカーファミリーの基盤強化を支援するプログラムJYD(JFA Youth & Development Programme)で、新たに世界的な企業であるトヨタとパートナーシップ契約を締結。キッズ年代のスポーツ推進とサッカーの普及を推し進める施策を打ち出した。また、審判委員会では、審判が選手や指導者と同じく世界レベルに達することを目的とした、新しい試みをスタートさせた。会長直轄の「特命室」においては、長年議論されてきたJリーグの開幕時期をめぐる「春秋制」か「秋春制」かについて、結論を出そうとしている。日本にサッカー文化を根付かせるべく、多岐にわたる新しい取組みがスタートしているのだ。

「変わるJFA」、その全貌はどのようなものだろうか。田嶋会長に直接うかがってみた。取材日は5月31日、U−20ワールドカップ(W杯)のラウンド16で日本がベネズエラに延長戦の末0−1で敗れた翌日だった。

田嶋会長の描くビジョン

U−20W杯はラウンド16敗退。田嶋会長(中央)は「日本全体で課題の克服に取り組んでいきたい」と語る 【写真:田村翔/アフロスポーツ】

 そもそも田嶋会長はJFAの改革をどのように考え、どのように進めようとしているのだろうか。

「改革というよりも、そぐわなくなったことを改善しようと取り組んでいます。これまで技術委員会が進めてきた『代表強化』『ユース育成』『指導者養成』という三位一体の強化策と『グラスルーツ(草の根)』は日本サッカー発展の基本であり、ここを変えるつもりはありません。今後もぶれずにやっていきたい。

 たとえばエリートの育成を目的にしたアカデミーと、トレセン制度(将来、日本代表選手となる優秀な人材を発掘し、良い環境と指導を与えるトレーニング制度)、指導者養成ももっともっと良いものにしていきたい。私が目指しているのは『世界基準』の実現と『育成日本復活』。常に世界を見据え、全てを『世界基準』にすべく進めています」

 世界基準の実現、これは会長就任の際の公約であり自身に課せた最大のミッションだ。世界との距離感を実感する出来事が、まさに取材日の前日に繰り広げられた。

「(U−20W杯について) 早速、西野(朗)技術委員長に指示して技術委員会に報告を求めました。U−20W杯で明確になった課題を全国の指導者と共有し、日本全体でその課題の克服に取り組んでいきたい。世界基準というのは『育成日本復活』とセットなんです。

 日本は、U−20W杯に10年出ていなかった。それまでは7大会出続けていて、1999年大会では準優勝を遂げています。でも今回はベスト16でしたが、大会に出場しないと世界と戦う実力があるかないかの中での現在地、それすら分からない。そういった意味で、今大会はいろいろなこと課題が明確とになりました」

 試合を振り返りながら、時に遠くを見つめ、時に熱のこもった口調となる。10年前と同じくラウンド16で大会を終えた日本代表。選手たちがサポーターの前まで来て頭を下げてあいさつする姿を、最も目に焼きつけたのは田嶋会長かもしれない。

JYDのスポンサーにトヨタが名乗り

田嶋会長はJFAの「三位一体の強化策+普及」構想に不可欠なプロジェクトがJYDだと語る 【スポーツナビ】

「普及」の面でも、今年は画期的な動きがあった。かねてより進めていたJYDのプロジェクトに、トヨタがスポンサー企業として名乗りを上げたのだ。マーケティング部とJYDが長い間、水面下で調整を進めてきたという。

「日本サッカー協会の技術委員会が掲げる『三位一体の強化策+普及』構想に不可欠なプロジェクトが、2016年に立ち上げたJYDなんです。

 今年5月に締結されたトヨタとのパートナーシップ契約は、財政面での支援にとどまりません。トヨタの販売店などのスタッフがJFAのキッズリーダーの資格を取得し、各都道府県サッカー協会が幼稚園児や保育園児で行っている、サッカーをはじめとしたスポーツの巡回指導に参加します。JYDの活動にスポンサーのスタッフが参画するという画期的な取り組みです。現在、この新しい支援のあり方に経済界やスポーツ界からも注目が集まっています」

 現在の日本全体の課題として少子化、しかも子供の外遊びの減少が挙げられる。将来の日本にとって危機的なことであり、多くの関係者が危惧している。そうした中で、サッカーの普及や次世代選手の育成推進を目的とするJYDの活動にトヨタが関心を示したことで、巡回指導のさらなる拡大が期待される。

「幼いうちに体を動かすことの楽しさや喜びを知ったら、一生スポーツに親しんでくれるようになるでしょう。また、最も技術を習得できるゴールデンエイジの10〜12歳という年代に、しっかりスポーツをやってくれる子供を育てたい。一方、トヨタとしては『地域に根ざした企業活動を通じて、経済・社会の発展に貢献する』という理念があります。このプロジェクトの目的がトヨタの理念と合致しているということで、今回のコラボが実現しました。本当にこれは画期的なことです。少子化を、僕らは止められない。だけど、その中でわれわれスポーツ団体は、スポーツをする子供を増やす努力をきっちりしないといけないと思っています」

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著者プロフィール

兵庫県生まれ。スポーツライター。女子サッカーの長期取材を続けている。またJリーグの育成年代の取材を行っている。『Number』『ZONE』『VOICE』などで執筆。イベントやテレビ・ラジオ番組にも出演。 現在週刊ビッグコミックスピリッツで好評連載中の初のJクラブユースを描く漫画『アオアシ』では取材・原案協力。NPO団体にて女子W杯日本招致活動に務めている。Twitterアカウントは @Nao_Ueno

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