トヨタとJFAが生むスポーツの新たな価値 子供の巡回指導で、地域に根ざした存在へ

上野直彦

広告露出ではない、スポンサードの価値

岩上はJYDについて「スポーツ界全体の発展のためにも、重要なプログラム」と説明した 【スポーツナビ】

 JYDは『2005年宣言』を受け、50年までにサッカーファミリー1000万人、日本で開催したW杯での優勝が最終目標となっている。その中間点である30年の目標はサッカーファミリー800万人、W杯ベスト4進出だ。岩上には目標達成のために代表はもちろん、ユースの育成、普及をもっとやっていかなければならないという思いがあった。そのための新しいマーケティングの形として結実したのがJYDだ。トヨタがスポンサーに加わった意義について、岩上は説明する。

「JYDのパートナー企業を増やし、より影響力のある形で継続していきたいと考えていました。今回トヨタが参入したということの意義はすごく大きい。トヨタとしては、せっかくスポーツの協賛をするのであれば社会貢献事業として、できるような仕組みでやっていきたいということでした。いわゆる広告など露出の面では、他のスポーツでも十分に得られている。そのため、JYDではむしろどれだけ自分たちが社会貢献をできるかということを目的とされていました。JFAが普及や育成をもともと重視していた点と、トヨタの希望が合致したことが大きい。

 これには今までJYDに参画されているパートナー企業(ナイキ、ニチバン、明治、モルテン)にも非常に喜んでいただきました。トヨタが加わったことは、彼らにとっても大きな支えになると。都道府県サッカー協会にも好意的に受け止めていただいています。JYDは日本サッカーの将来の発展のために非常に大事なプログラムです。これからの日本代表を育てるための下地となり、サッカー界のみならずスポーツ界全体の発展のためにも、重要なプログラムなんです」

 JYDの画期的な取り組みについては、すでに他競技の関係者からも注目を集めているという。とはいえ、全体的な認知度が「まだまだ低い」と岩上は危惧する。

「JYDのプログラムそのものの認知度が、まだそれほど高くないのが正直なところです。県協会などでトヨタとのプロジェクトについて説明することがあるのですが、まだまだJYDの取り組み自体への理解度が低い。なので、JYDの情報をもっといろいろな場面でより多くのサッカーファミリーに届けていかなければならないと強く感じています」

企業とサッカー界の課題を共に解決

JFAでJYDに関わる谷島、岩上、野上、林(左から) 【スポーツナビ】

 企業の課題を解決し、JFAやサッカー界の課題をも解決するパートナーシッププログラムは、過去には存在しなかった。この画期的なJYDが成功することで、スポーツのかつてない新しい価値を生み出せるのではないだろうか。

「競技を『する』選手だけでなく、指導者や保護者といった競技を『支える』方々も全国にたくさんいらっしゃいます。JYDとしてはそういう方々の夢も応援していきたい。また、20年以降も見据えながら、サッカーだけでなく、競技の垣根を超えて、スポーツ界に『普及と育成の輪』がますます広がるきかっけづくりに、JYDが少しでも貢献できればうれしいです」(林)

「日本のスポーツ、社会をもっとよくしたいということが根本にあります。パートナー企業と協働しながらJFAの理念である『豊かなスポーツ文化を創造し、社会の発展に貢献する』ことをJYDを通じて体現し、競技団体が発展し、サッカーファミリーへ還元する。この好循環の仕組みをさらに加速させていきたい。JYDはまだまだ認知が足りないという課題もあるのですが、スポーツ界全体にも貢献できるような仕組みのいちモデルとなるようチャレンジを重ねていきたいと考えています」(谷島)

 JYDとトヨタの新しい取り組みはまだ始まったばかりである。今後は全国の販売店スタッフが指導者ライセンスを取得する必要があり、指導面でのクオリティーの担保など、クリアしなければならない課題も多い。だがJYDにおけるトヨタの取り組みはかつてないCSRの形態であり、JFAにとっても過去にはなかった普及・育成のプログラムである。スポーツ人口の減少が問題視されている近年、どの競技でも行われていない普及への取り組みが、まずサッカー界からキックオフした意義も大きい。

 JFAとトヨタが切り拓く、全く新しいスポーツとビジネスが生むグラスルーツの創成と発展に今後も期待したい。

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著者プロフィール

兵庫県生まれ。スポーツライター。女子サッカーの長期取材を続けている。またJリーグの育成年代の取材を行っている。『Number』『ZONE』『VOICE』などで執筆。イベントやテレビ・ラジオ番組にも出演。 現在週刊ビッグコミックスピリッツで好評連載中の初のJクラブユースを描く漫画『アオアシ』では取材・原案協力。NPO団体にて女子W杯日本招致活動に務めている。Twitterアカウントは @Nao_Ueno

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