FC岐阜で大革命が起きている 未完成だが、夢に溢れたサッカーを実施中

「シシーニョって知っとるか?」

すてきな逸話が話題になったシシーニョ。今季の岐阜は見せているサッカーも面白い 【(C)J.LEAGUE】

 つい先日のことだ。
「おい。お前、シシーニョって知っとるか?」

 はてな。一瞬、自分の耳を疑った。サッカーになじみのない、自分の父が口にする名前としては、唐突すぎる。もしかすると、中日ドラゴンズにそういう名前の選手がいるのかと思ったが、違うようだ。やっぱり、FC岐阜のMFシシーニョを指している。

 どうやらローカルの情報番組で知ったらしい。スペインの世代別代表に名を連ねたほどの選手が、インターネットを通じてアビスパ福岡のバンディエラ(旗頭)、城後寿のファンになった。それがJリーグへの移籍を決めた理由のひとつだったと。サッカーメディア『フットボールチャンネル』が発掘したすてきな逸話は、ローカルのテレビ局も取り上げ、サッカー音痴、ネット音痴の父の耳にも届いていた。

 その父が珍しく「FC岐阜、見に行ってみるか」と言うので、率直に答えておいた。
「行ったほうがええぞ。今年は本当に面白いサッカーしているから」

【データおよび画像提供:データスタジアム】

 Jリーグ随一のパスサッカーといえば、最近は川崎フロンターレや浦和レッズが思い浮かぶのではないか。しかし、このビッグネームを抑え、今季のJリーグ全57クラブで、1試合平均のパス数が693本と、トップの数字を記録するのは、実は岐阜である。

 そのパス数は川崎の673本、浦和の613本も上回り、Jリーグ平均444本より200本以上も多い(データは2017年7月2日終了時点、以下同)。そのほか岐阜は、パス成功数が573本、ボール支配率が63.0%で、こちらもトップ。唯一、パス成功率だけは82.7%で、川崎の84.8%に劣るが、それでも際立った数字であることは間違いない。

 特にJ2に限れば、パス数2位の名古屋グランパスでさえ593本にとどまっており、岐阜のパス数が他を圧倒していることが分かる。岐阜は劇的に変わった。対戦カードが一巡した今、J2クラブのサポーターは、その変貌ぶりを実感したのではないか。名古屋で革命が起きると思っていたら、岐阜ではもっと大きな革命が起きていた。

魅力的で、夢に溢れる岐阜のサッカー

【データおよび画像提供:データスタジアム】

 その指揮を執るのは、ポゼッションスタイルで有名な大木武監督だ。両ウイングがタッチライン際に広がり、ワイドな陣形を作りつつも、ボールの周囲はせまく閉じている。パスの距離感がかなり近く、ショートパスどころか、ベリーショート。この近さでボールを動かしてスルーパスやワンツー突破を狙いつつ、相手の陣形が密集したら、サイドチェンジをして逆側のウイングや、オーバーラップしたサイドバックを使っていく。

 ボール周囲をせまく閉じることは、攻撃だけでなく、守備のポイントでもある。岐阜はパス回しの距離が近いために、ボールを失ったとき、近くの味方がすぐにプレスをかけることができる。ショートパス、ショートプレス。攻防一体のボール制圧サッカーだ。

 そのスタイルは、データにも裏付けられる。岐阜はボールを失ってから5秒未満で奪い返した回数が、1試合平均14.67回。J2では2位だ。昨シーズンは10.64回だったので、増減比138%と大きく変化したことが分かる。

 攻撃でも守備でも、常にボールにアクションを起こし続ける、アグレッシブな岐阜のサッカー。少年のようにボールを追い求める姿は、見る者を飽きさせない。実に魅力的で、夢に溢れている。

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