1999年のJ2創設は何をもたらしたのか? 『J2&J3フットボール漫遊記』上梓に寄せて

宇都宮徹壱

もしもJ2が創設されなかったら……

J3の歴史的評価は時間が必要だが、「地元に新しいスタジアムを」という機運は鹿児島でも高まっている 【宇都宮徹壱】

 99年にJ2が創設されたことで、Jリーグのパブリックイメージもまた、がらりと変わった。開幕当初のJリーグといえば、都会的で先進的かつバブリーな雰囲気に包まれており、プレーヤーもまた近寄りがたいスター性を持っていた。ところがJ2ができたことで、Jリーグはローカル色豊かで普遍的かつ庶民的なものへと劇的に変容していく。ピッチ上でプレーする選手も、確かに往時と比べて地味にはなったかもしれない。それでも「近所の兄ちゃん」のようなJリーガーに対して、地域のファンがこれまで以上に親しみを感じるようになったのも事実である。

 一方でJ2の創設は、地域的な広がりももたらした。Jリーグ黎明(れいめい)期のオリジナル10は、(鹿島アントラーズを除けば)東海道新幹線沿線プラス広島という範囲内でクラブのホームタウンは限定されていた。そしてそのほとんどが政令指定都市である。Jリーグ開幕当初、Jクラブのない地方都市において、ヴェルディ川崎(当時)のキャップを被った小学生が大量発生したのも、Jリーグが「特別な存在」であったことの証左であった。しかしJ2ができたことで、たとえば最も人口が少ない鳥取県でも、あるいは最も面積が小さい香川県でも、Jクラブが誕生することとなったのである。

 もしもJ2が創設されなかったら、おそらくその後のJリーグの発展は望めなかっただろう。J2という新たなカテゴリーは、特定企業に依存することなく、地域に寄り添いながらプロクラブとして成長を促す場として、立派に機能してきたからだ。ただし、14年に創設されたJ3リーグの評価については、今少し様子を見る必要がある。「J未満」のクラブをJリーグ3部としたことの是非については、今もさまざまな意見があるからだ。そんな中、J2ライセンスを取得するべく、各地で「地元に新しいスタジアムを」という機運が高まりつつあることは留意すべきだろう(秋田や鹿児島ではそうした動きが見られている)。

 J1に比べて競技レベルが低く、メディアの露出が少なく、どこか微温的な空気感が否めないJ2。しかし一方でJ2は、J1にはない独特のサポーター文化を生み出していった。コアなJ2のサポーターほど、試合以外の要素にも強い関心を示し(たとえばスタジアムグルメ、マスコット、遠征先でのさまざまな風物など)、さらには他サポとの交流も心底楽しんでいる。それにフットボールの楽しみとは、単に試合に勝利することや、より多くのタイトルを獲得することだけではない。より始原的で多様性に満ちた、フットボール観戦の喜びを、わが国に定着させたJ2(そしてJ3)。これらのカテゴリーもまた、日本サッカー界の大切な宝ものなのである。

『J2&J3フットボール漫遊記』(PR)

【東邦出版】

「おいでよJ2(J3にも)! 」 『J2&J3フットボール漫遊記』著者による前口上

Vol.01 昇格13年目の「Jリーグ元年」 水戸ホーリーホック (2012年・夏)
Vol.02 ネガティブをポジティブに変える力 ファジアーノ岡山 (2012年・秋)
Vol.03 「最もかわいそうな県職員」と諦めない監督 大分トリニータ (2012年・秋)
Vol.04 北の大地で始まった「のんのん革命」 コンサドーレ札幌 (2013年・夏)
Vol.05 降って湧いた「新スタジアム構想」 モンテディオ山形 (2013年・夏)
Vol.06 「ジェフ愛」を隠そうとしない人々 ジェフユナイテッド千葉 (2013年・秋)
Vol.07 バドゥ、日本を愛しすぎた男 京都サンガF.C.(2014年・春)
Vol.08 「黄金時代」から遠く離れて ジュビロ磐田(2014年・夏)
Vol.09 福島と湘南をつなぐもの 福島ユナイテッドFC (2014年・夏)
Vol.10 昇格度外視の意地の戦い ギラヴァンツ北九州 (2014年・秋)
Vol.11 去りゆくフォルランと「セレ女現象」 セレッソ大阪 (2015年・春)
Vol.12 旋風を巻き起こす謙虚な男たち ツエーゲン金沢 (2015年・夏)
Vol.13 夢のプレーオフ進出と堀之内の風景 愛媛FC (2015年・秋)
Vol.14 教員チームからJクラブへの遙かなる道 レノファ山口FC (2015年・秋)
Vol.15 外様の人々が思い描く「王国復活」の夢 清水エスパルス (2016年・春)
Vol.16 昇格と統合から「持続してゆくクラブ」へ 鹿児島ユナイテッドFC (2016年・秋)
Vol.17 J3とBリーグがある街にて ブラウブリッツ秋田 (2016年・秋)
Vol.18 「キング」の健在と「F」の記憶 横浜FC (2017年・春)

彫刻家の仕事、写真家の仕事 あとがきに代えて

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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