福島千里、どん底から見えた光 日本選手権の連覇よりも貴重な経験
「世界で戦えるレベルに達していない」
200メートルでも後半に伸びを見せることができず、福島(中央)は5位に終わった 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】
レース前の心境については、「頑張ろうという気持ちは……。でも大きく変わることはなかった」と言葉を濁した。どうやら前日の敗戦から切り替えることは難しかったようだ。気持ちを切り替えるというよりも、まずは“受け入れる”ことが優先だったのかもしれない。
レースの号砲が鳴ると、いつも通りのスタートダッシュで隣を走る市川をとらえようとし、コーナーを抜けた付近で一度並びかけた。しかし、ストレートに入ってからその背中が遠くなり始めると、今井沙緒里(飯田病院)、中村水月(大阪成蹊大)にも離され、最終的には5位という結果に終わった。
「私の今の状態は世界で戦えるレベルに達していないですし、このレベルで(コーナーの)抜けが良くても関係ない」
どんなにスタートがうまくいっても、世界で戦う上では物足りない。200メートル全体を通して戦えなければ意味がないと、走りに対しての自己評価は厳しいものだった。そこには福島のプライドも感じさせた。
やっと“競技者”に戻ることができた
「今シーズンは、足のけいれんで走れない時期が何カ月も続いて、何度も同じことを繰り返した。練習をしても、レースを本気で走れない。本当に本当に自分の中で、今までで一番苦しいシーズンだった。この日本選手権で一番を取らないといけないのは分かっている。ただそれよりも大切なことは、この数週間の調整で、大会中に一度もけいれんがなかったこと。それが、この数週間の中で一つ自分が成長できたことだった」
今季は途中棄権や欠場が続き、レース中に大失速することもあった。力を出し切れずに負けることも多く、そのモヤモヤが福島の中では大きくなっていた。日本選手権では2つの連覇が途絶えたものの、最後まで走り切れたことで「やっと“競技者”みたいに、レースを途中でやめずにできた」ことを成長と評した。
「それが日本選手権になったのは遅かったかなと思いますが、今からでも遅くないのかなと。こういう負けを経験することは、自分自身の中で必要だったかなと思う」とここからの気持ちの切り替えを誓った。
200メートルでは表彰台を逃したが、100メートルでは2位に入り、今後のレース結果によっては、まだ世界選手権出場への望みはつないでいる。
一度どん底を見た福島が、再び“世界で戦えるレベル”に戻ることは、決して不可能なことではないだろう。
(取材・文:尾柴広紀/スポーツナビ)