全日本男子の新たな挑戦と、高まる期待 速さと高さが共存するバレーを目指して
タイプの異なる相手に3連勝
ワールドリーグ高崎大会で3連勝を飾った日本。スロベニア戦では藤井(右)のトスから柳田がバックアタックを決めた 【坂本清】
セットカウント2−2で迎えた最終セット。山田脩造がアタックラインよりやや後ろに上げたパスを、セッターの藤井直伸はミドルブロッカーに上げ、李博のBクイックで日本が1点を先制。続けてスロベニアも取り返して1−1とすると、次は李に上げると見せかけて、藤井はバックセンターの柳田将洋を使う。
スロベニアのブロックは2枚、ミドルブロッカーの李のBクイックに絞って跳んでいたため、結果的にノーマークになった柳田のバックアタックが豪快な音とともに決まり、2−1。このセットを17−15で制した日本が3−2で勝利した。淡々と、だが時折笑顔を交え、司令塔の藤井が振り返った。
「『やったー、ハマった』って。あれだけ速いクイックを見せていれば、外国人の選手でもリード(ブロック)だけでは対応し切れない部分もある。Aパスの時はミドルにコミット(ブロック)でくることが多いので、そこでサイドに対してブロックが1枚になるようなシチュエーションをつくっていけたら楽かなと思います。逆にBパスやCパス、乱れれば相手はリードでくるからミドルが生きる。(高いブロックに対して)ミドルを使うのは怖いですけれど、使えばいろいろな攻撃が生きるので、勇気を持って使い続けました」
まさに狙い通り。男子バレーボール日本代表にとって今季の国内初戦となったワールドリーグ高崎ラウンドはトルコ、スロベニア、韓国とタイプの異なる相手に3連勝。結果もさることながら、過程も含め、今後に向けて期待が高まる好スタートを切った。
オーバーハンドでのレセプションを求めるブランコーチ
攻撃の枚数をを確保するため、ブランコーチ(左)はオーバーハンドでのレセプションを指示 【坂本清】
常に攻撃参加の意識を高く持ち、サイドアウト(相手チームのサーブ)時も、ラリー中も最低3枚、できれば後衛も含めた4枚が同時に攻撃に入ること。そのために、柳田や山田、浅野博亮などウイングスパイカーの選手に対しては「できるだけ体勢を崩さず、次の準備に入れるように」とオーバーハンドでのレセプション(サーブレシーブ)を指示し、選手はその策を遂行した。
柳田は言う。
「ブランさんからはとにかく『オーバーで取れ』とめちゃくちゃ言われます。もともと僕はオーバーのほうが得意なので、自分としてもフィットしている感じがあるし、(初戦で対戦した)トルコのようにフローター(サーブ)が多いチームに対しては、オーバーが一番いい。シンプルなことだけど、指摘され続けて、チャレンジしてきた成果は出ていると思います」
バックアタックさながらのジャンプサーブや、変化だけでなくスピードもあるジャンプフローターサーブなど、世界のサーブの進化は止まることがない。当然ながら、レセプションを担い、攻撃にも入るウイングスパイカーの負担も増すばかり。だがそこでジャンプフローターに対してはオーバーハンドでレシーブする、といったように1つ指針があれば、たとえ多少乱れることがあっても「精神的にも楽でいられる」と柳田は言う。
ミドルの積極活用で数的優位を生み出す
ミドルからの攻撃展開を得意とする藤井(中央)の存在もあり、日本は攻撃時に数的優位の状況を生みだすことができていた 【坂本清】
サイドアウト時も「Aパスが返らなければミドルは使えない」という概念などそもそも持たず、Bパスでも積極的に上げ、ラリー中もミドルを使う。特に李とのコンビは高崎ラウンドの3連戦で冴えわたり、李も「BパスどころかCパスでも藤井は(ミドルに)上げてくるので、いつでも打てる準備をしていた」という。
サイドからの攻撃一辺倒、オポジット一辺倒ではなく、ミドルの打数が増えれば当然相手のブロッカーもミドルに対する警戒を強める。そこにバックアタックも加われば相手のブロックに対し、日本が攻撃時に数的優位の状況を生みだすことができる。
誰かに頼るのではなく、全員で攻める。攻撃参加の意識を高める、というブランコーチが提示する戦略の成果を、前週のスロバキア大会で活躍した浅野はこう言う。
「僕の役割は守備面の比重が高い。でも、たとえ(ローテーションの)後ろ3枚を回すだけの役割だったとしても、そこで自分もバックアタックに入れば、相手を少しでも惑わすことができます。ほんの数秒、0コンマ何秒の違いかもしれないですけれど、それだけでも相手のミドルが『バックアタックもある』と思えばサイドへの移動も少し遅れる。それが大切だと思うんです」