葛藤し続けた岡崎慎司のプレミア2年目 残留に貢献も、得点は物足りない結果に

田嶋コウスケ

ストライカーとして“最高”の環境にいたマインツ時代

マインツ時代は、ストライカーとして“最高”の環境に置かれていた 【Getty Images】

 では、今の状況を打開するポイントはどこになるか。もちろん、ゴール数を増やせば変わってくるだろうが、そう単純な話ではない。

 まず、日本代表FWに回ってくるゴールチャンスは極めて限られている。守備タスクが多いことから、1試合のなかで決定機は1〜2回あればいい方だろう。もう1つの理由は、岡崎が得意とするフリーランや動き出しに、味方がパスを合わせてくれないことだ。

 その原因は、ジェイミー・バーディーという絶対的な存在にある。今のレスターはバーディーありきのチーム、そう言って差し支えないだろう。チームメートがボールを持つと、まずは最前線に陣取るイングランド代表FWを探してラストパスを出す。他方、岡崎の動き出しに合わせてスルーパスやクロスを入れることは少ない。いくらFWのポジションと言えども、この状況で岡崎がゴールを量産するのは至難の業だ。

 対照的なサンプルは、前所属先のマインツでの立ち位置だろう。走り込んだその先に、スルーパスが入る。あるいは、自分の欲しい場所にクロスボールが出る。岡崎の在籍1年目に指揮官を務めた智将トーマス・トゥヘルは、日本代表FWのプレースタイルに合ったオーダーメイドのチームを作り上げた。

 真紅のユニホームに身を包んだ日本代表も、周囲の期待に応えるようにゴールを量産した。ポジションは4−2−3−1のセンターFW。ゴールに最も近いポジションで13−14シーズンは15ゴール、翌シーズンは12ゴールと、2季連続で二桁ゴールをたたき出した。マインツ時代は、ストライカーとして“最高”の環境に置かれていた。

岡崎を評価した2人は、レスターにはもういない

岡崎に惚れ込んでいたピアソンと、ウォルシュ(左奥)はレスターにはもういない 【Getty Images】

 そんな岡崎に熱視線を送ったのが、当時レスターの監督を務めていたナイジェル・ピアソンと、スカウト部長でアシスタントコーチを兼任したスティーブ・ウォルシュである。とくに、日本代表FWの移籍で大きな役割を果たしたのが、「稀代の目利き」と呼ばれるウォルシュだった。レスター移籍の舞台裏について、岡崎が次のように明かしたことがある。

「最初に自分を追いかけてくれたのが、スティーブ・ウォルシュだったと聞きました。自分のプレーを見てくれていて、代理人に話をしてくれたようです。ウォルシュ主導の補強だったと聞いています。でも、自分への評価は『点を取る』部分でした。もちろん、ハードワークの部分もあったと思うんですけれど。だから、本当はもっと点を取る部分で期待されていると思います」

 関係者によると、ウォルシュは岡崎のゴールまでのプロセス、つまり、オフ・ザ・ボールの動きやフリーランにも注目していたという。クロスボールが入る際のフリーになる動き、抜群のタイミングで相手DFの背後へ抜けるラインブレーク、敵のマークがつくと走る方向を素早く替える俊敏性。賢さと貪欲さを総動員してネットを揺らす岡崎に、ウォルシュとピアソン監督は惚れ込んでいた。

 しかし、岡崎の獲得が決まった4日後にピアソン監督が電撃解任。そして、ウォルシュも「奇跡のリーグ優勝」を成し遂げた昨シーズン終了後にレスターを離れ、新天地のエバートンでフットボールディレクターの職に就いた。岡崎の「点取り屋」としての持ち味を最もよく知る2人は、レスターにはもういない。

レスター残留か、移籍か

レスターで絶対的な存在になるというハードルは今季、最後までクリアできなかった。来季は岡崎にどのようなシーズンが待っているのか 【写真:Shutterstock/アフロ】

 岡崎は、今の心情を吐露する。

「今の立ち位置を変えるには、『何試合もゴールを決める』、もしくは『定期的にゴールを決める』。1シーズンで10ゴール以上取ったときに何かが変わるかもしれないですけれど、それはすごくハードルが高いことですよね。もちろん、それを追い求めるためにプレミアに来ましたが、モチベーションを保てるかと言ったら、なかなか難しい。どこかでストレスがたまるし、動けなくなる瞬間もある」

 あくまでも予想になるが、バーディーの移籍、もしくは指揮官交代といった劇的な変化がなければ、岡崎の立ち位置は来シーズンも変わらないだろう。シェイクスピア監督が留任し、バーディーも残留となれば、ほぼ間違いなく今季と同じ役割を任されるはずだ。その場合、岡崎は指揮官と膝を付き合わせ、意見をぶつけることも必要になるだろう。あるいは、移籍の選択肢をとるか。

 移籍が吉と出たケースとしては、マンチェスター・ユナイテッド(14−15シーズンに在籍)やチェルシー(15−16シーズンに在籍)で活躍できなかったコロンビア代表FWのラダメル・ファルカオが、今季から加入した新天地のモナコで復活を遂げた例もある。リーグアンで21ゴールを挙げたように、監督の采配や周囲の変化によって状況がプラスに転じることもある。

 プレミアリーグ最終節で岡崎は、レスターに残留することを「基本線」と強調しながらも、「オファーがあれば、すべての選択肢を考えるか?」という記者の問いに、「そもそもオファーはないが、選手としてはそうですね」と含みを持たせていた。

 レスターで絶対的な存在になるというハードルは今季、最後までクリアできなかった。しかし、その壁を何とかして乗り越えようと試行錯誤を続けたのが、プレミアリーグ挑戦2季目の岡崎だった。

 4月に31歳の誕生日を迎えた日本代表FWに来シーズン、はたしてどんなストーリーが待っているのだろうか。

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著者プロフィール

1976年生まれ。埼玉県さいたま市出身。2001年より英国ロンドン在住。サッカー誌を中心に執筆と翻訳に精を出す。遅ればせながら、インスタグラムを開始

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