レスターはなぜ「内部崩壊」したのか 現地記者が見たラニエリ解任の舞台裏

田嶋コウスケ

昨季「奇跡の優勝」を成し遂げた指揮官だったが……

2月22日に行われたCL決勝トーナメント1回戦の第1戦がラニエリが指揮を執った最後の試合となった 【写真:ロイター/アフロ】

 レスターのクラウディオ・ラニエリ監督が成績不振を理由に解任されたのは、チャンピオンズリーグ(CL)決勝トーナメント1回戦の第1戦、セビージャとの試合(1−2)の翌日、現地時間23日のこと。優勝オッズ5001倍の「奇跡の優勝」を成し遂げ、「現代版おとぎ話」と世界中から称賛されたイタリア人指揮官だったが、プレミア戴冠から9カ月後に解雇通告を突きつけられた。

 突然の解任劇に、元イングランド代表FWのガリー・リネカーは「不可解で許されるものではなく、心が張り裂けそうなほど悲しい」と憤慨し、元トッテナム監督のハリー・レドナップも「驚くべきことではないが、失望した」と解任の決断に異議を唱えた。昨季、開幕前に降格候補とささやかれていたレスターをリーグ優勝まで導いた功績は紛れもない事実で、たしかに識者が怒りの声を挙げるのも無理はない。

 しかし、「ロマン」や「人情」といったセンチメンタルな言葉だけで、片付けられない状況に置かれていたことも事実である。成績不振はもちろんだが、長い国内リーグを戦う上で決して無視できない「内部崩壊」が始まっていたからだ。レスターの密着取材を行っている筆者の目には、もはや修復不能な状態に陥っているようにさえ映った。その引き金になったのが、クラブのトップを務めるラニエリの「マン・マネジメントのつたなさ」にほかならない。

 実際、レスターが低空飛行を続ける2月上旬から、英紙『デーリー・テレグラフ』は、チームの内情について次のようにレポートしていた。

「戦術、フォーメーションを頻繁に代える指揮官の采配に、選手たちは困惑し、不満を抱くようになった。事前に決まっていた戦術をキックオフの1時間40分前に突然、大きく変更して選手たちを混乱させたこともあった。また試合にあたり、指揮官から明確な指示が出ないことも不満を増長させた。情報筋によれば、ドレッシングルームの雰囲気は”気が抜けた状態”となっており、一部選手は『ラニエリが去らなければ、降格は避けられない』と考えるようになったという。それほど、選手と監督の関係は冷え切っていた」

「11月(編注:2日)に行われたCLグループリーグ第4節のコペンハーゲン戦では、選手が使用するスパイクのスタッドをめぐり、ラニエリ監督とバックルームスタッフが激しく衝突した。イタリア人指揮官は、アシスタントコーチのクレイグ・シェークスピアを含むコーチ陣と距離を置くようになった」

ピッチ内外で感じられた違和感

昨季はシェークスピア助監督(右から2番目)と相談していた選手交代も、今季は途中からラニエリが1人で決断するようになる 【Getty Images】

 確かに、今シーズンは「おや?」と思うことが何度かあった。その1つが、試合時における選手交代である。昨季なら選手交代が必要な時間帯に入ると、シェークスピア助監督がラニエリのもとに歩み寄って相談。しばらく話し合った後、投入する選手をベンチから呼び寄せていた。しかし今季は、こうした光景が少なくともシーズン途中から見られなくなった。ラニエリが1人で決断し、選手を起用するようになったのである。

 監督と選手の関係にも、小さくない違和感を抱いた。前出のCLグループリーグ第4節のコペンハーゲン戦では戦術トレーニングを一度も行うことなく、突然5バックシステムを採用し、4バックが基本型のレスターの選手たちを大いに混乱させた。1月14日のプレミアリーグ第21節のチェルシー戦でも、試合中の「ディフェンスラインの枚数変更」をめぐり、クリスティアン・フックスを含む選手たちがピッチ上で混乱する一幕があった。監督と選手の間で円滑なコミュニケーションがとれているのか、あるいは指揮官への信頼は揺らいでいないのか──。筆者も、不安を覚えずにはいられなかった。

 実は、こうした異変を決定的なものにしたのが、12月7日に行われたCLグループリーグ第6節のポルト戦だった。すでに決勝トーナメント進出を決めていたレスターは、控え組中心のメンバーでこの一戦に臨んだ。しかし、結果は0−5の大敗。ポルトのシュート数18に対し、レスターはわずか6。枠内シュート数も8対0と、力の差を見せつけられた。すると試合後、ラニエリは怒りをあらわにして語り始めた。

「私は非常に悲しい。負けることはあるが、このような負け方はない。一部の選手(=控え組)は、ベストの自分を私に示す最高のチャンスを失った。彼らには出場機会が少ないのに、CLで偉大なチームと戦わなければならないという事情はあった。だが彼らは、もっと自分の力を見せる必要があった。我われは、3日後にマンチェスター・シティ戦が控えている。そのため、控え組にチャンスを与えたが、何人かの選手はそのチャンスを逃してしまった。ファンに対して申し訳ない」

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著者プロフィール

1976年生まれ。埼玉県さいたま市出身。2001年より英国ロンドン在住。サッカー誌を中心に執筆と翻訳に精を出す。遅ればせながら、インスタグラムを開始

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