技巧派投手が語り合う変化球の過去と未来〜小宮山悟×武田一浩 対談〜

週刊ベースボールONLINE

楽天・岸のカーブは本当のカーブ

印象的だった変化球投手として真っ先に名前の挙がった星野伸之。しなやかなフォームから繰り出す90キロ台のスローカーブで打者を苦しめた 【写真=BBM】

小宮山 僕らの世代だと星野(伸之/現オリックスコーチ)のスローカーブが際立っていたね。あんなの普通の人は投げられない。

武田 俺は打席に立ったことあるけど、すごく曲がるんだよ。どこ投げてんのという球がストライクになるくらい。

小宮山 カーブなら岡島(秀樹/元巨人ほか)のカーブも魔球に見えた。本当に消えてしまうんだよ。カーブだと思って打ちにいくと、視界からボールがなくなって、ワンバウンドするような球を振ってしまう。あれはすごかった。それと、同級生なら山本昌(元中日)のスクリューだね。もう時効だから言うけど、試合中にキャッチャーの中村武志(元中日ほか)に「スクリュー放らせてよ」とリクエストして打席で見させてもらったこともあった(笑)。縫い目がタテに1本、きれいに回転していたね。マウンド上の昌は「何でこいつにスクリューを投げなくちゃいけないんだ」みたいな顔をしていたけど(笑)。

武田 さっきも話に出たけど潮崎のシンカーはすごいと思った。左のカーブみたいな球でね。腕があれだけ振れているから投げられたんだろうな。

小宮山 バットに当たらないボールを投げられるってすごいことだよな。

武田 野茂(英雄/元近鉄ほか)のフォークもそうだよね。「何で打てないんですか」と打者に聞いたら、「投げた瞬間はストライクだと思うのに、振りにいったら消えているんだ」って。

小宮山 野茂とは何度も投げ合ったけど、大魔神(佐々木主浩/元横浜ほか)のフォークは横から見ていると落ちているのが分かる。真っすぐが突然ストーンと落ちるような軌道だった。でも、野茂のフォークはそうじゃない。真っすぐの感じでワンバウンドしているんだよ。

武田 ボールが来ないんだよな。

小宮山 バッターからすると真っすぐなんだけど、ボールが来ないから先にバットが回って空振りしてしまう。横から見ていても落ちているように見えないんだよ。星野のフォークもそうだったよね。

武田 あまり落ちなかったけど、真っすぐの感じでボールが来ない。それでいて低いんだよね。

小宮山 パ・リーグのバッターってみんな振り回してきたから、そのボールが有効だった。

武田 パ・リーグだったら自分が打席に立たないから、何で打てないのか分からないんだよな。

小宮山 横から見ているしかないから「何でバットに当てられないんだよ」と余計に腹が立つ。それでセ・リーグに移籍して打席に立って「ああ、当たらないな」と妙に納得した(笑)。「やっぱりプロのボールってすげえな」って。

武田 分かる、分かる(笑)。130キロそこそこでも質が違うよね。

小宮山 現役で一番は金子千尋(オリックス)のチェンジアップだね。これはメジャーの中に入っても相当にいいボール。

武田 金子のチェンジアップはトレバー・ホフマン(元パドレスほか/メジャー通算601セーブのクローザー)と同じようなボールだよね。パラシュートみたいな感じで、腕は振れているのに球が来ない。

小宮山 ピンポン球を投げているようなイメージだよね。あれは簡単には打てない。

武田 見ていると千賀(滉大/福岡ソフトバンク)のフォークはすごいけどね。大魔神系のストーンと落ちるボール。スライダーなら、メジャーを含めてもダルビッシュ(有/レンジャーズ)だろうね。2006年にWBCのコーチをやっていたときの松坂(大輔/ソフトバンク)のスライダーも印象的だったけど、いい投手のスライダーって、曲がり始めで回転が増して、スピードが上がっているように感じるんだよ。

小宮山 物理的にはあり得ないんだけどね。軽く腕を振っているように見えるんだけど、回転がすごいんだろうね。

武田 俺は岸(孝之/東北楽天)のカーブもいいと思う。ブレーキの利いた昔ながらのカーブだよね。

小宮山 本当のカーブだね。でも、今はそういうカーブを使う投手が少なくなった。ボールが飛ぶ理屈でいうと、ボールのスピン量が多くなればなるほど、バットに当たったときに浮力が生じるから、投手としてはなるべくスピン量を減らしたい。でも、スピン量が多くないと変化しない。その中でもカーブはスピン量が多いから、飛ばされたくないと思う人はカーブを捨てて違うボールを選んでしまう。同じ曲がり球だったらスライダーのほうがコントロールしやすいからね。

武田 俺たちがやっていたときはそもそも、スライダーを投げる投手が少なかったよね。だいたいカーブ。俺がカットボール投げ始めたときにも、ほかに誰も使っていなかったんだから。

小宮山 カットボールという名前がなかった時代は「小さいスライダー」とか「マッスラ」って言われていたよね。真っすぐのつもりで投げたボールがスライドするという。その当時、日本ではフォーシームできれいに真っすぐ行くのが正しいボールと評価されていた。でも、当時からアメリカは一歩、二歩先を行っていたから、「きれいなボール=飛びやすいボール=打ちやすいボール」という考え方で、速くて動くツーシームやカットボールが主流になっていったんだよね。

究極の変化球は浮き上がるボール!?

2人が現役投手の中で一番の変化球として真っ先に挙げたのが、オリックス・金子のチェンジアップだった 【写真=BBM】

小宮山 今の究極って、浮き上がるボールしかない。

武田 どうやって投げればいいんだろうね。

小宮山 過度にバックスピンをかければいいんじゃないかな。

武田 宣(宣銅烈/元中日ほか)さんがストレートを投げるときに、中指と人さし指を立ててボールを引っかくようにして投げていた。そうするとスピンが多くなってよく空振りを取っていたな。かなりの指先の力がないといけないし、長いイニングは投げられなかったけどね。でも、ブルペンで見ていて本当にきれいなボールだった。

小宮山 浮き上がって見えるだけでいいんだよ。重力には逆らえないからボールはどうやっても沈む。でもその落差が少なければ、打者には浮き上がっているように見える。打ちにいったバットの上を通過するボールになっているかどうか。

武田 ストレートでスピン量が多いのは広島の岡田(明丈)。スロー映像で見るとボールが浮いてる感じなんだ。

小宮山 ほかに可能性があるとすれば、スライダー回転なのに真っすぐ、あるいは真っすぐの回転なのにスライダーみたいに曲がるようなボールだね。これを確実に投げられれば面白い。

武田 すっぽ抜けたらそういう変化をすることはあるけどね。それをコントロールできれば打たれないだろうね。

小宮山 昔、宜野座カーブ(2001年センバツに出場した宜野座高の投手が投げて話題となったカーブ)ってあったでしょ。カーブの回転なんだけど、シュートして落ちるボール。

武田 河原(純一/元巨人ほか)のカーブがそうだった。キャッチボールでカーブを投げてっていうと、逆方向に曲がる。河野(博文/元日本ハムほか)さんもそうだったな。2人とも駒沢大だからかな(笑)。あとは、日本人でナックルの名手が出てほしいね。

小宮山 そんな遊び心を許してくれる首脳陣がいる球団はありません(笑)。

(取材・構成=吉見淳司)

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