観客143%増の裏に見えた“伸びしろ” Bリーグ初年度を振り返る エンタメ編
試合会場には深刻な課題が
築50年を超す老朽化した体育館をホームアリーナとするB1クラブも多く、プロリーグとしては深刻な課題が浮き彫りとなった 【加藤よしお】
Bリーグは女性客の比率が高いということもあって、特に「トイレの行列問題」は深刻だった。そこはシンプルに来場者のストレスだし、経営的にもビールを筆頭にした飲食物の売り上げを落とす要素。プロスポーツとして「気持ちよく飲んでもらう」ことも立派なファンサービスだが、それができない会場が多かった。
ロビー、コンコースも極端に手狭だった。例えばサッカーでは、試合前に飲み食いをしながら仲間と語らうためにスタジアムへ足を運ぶサポーターが多い。演劇やコンサートでもホワイエと呼ばれるたまり場の機能が重視されている。しかしBリーグのアリーナにはそういうお祭り、コミュニケーションの場がない。ロビーが手狭なため物販も制限され、試合前やハーフタイムは移動に支障が出ていた。
いくつかのアリーナでは椅子ひとつ見ても“昭和感”が残っていた。コートサイド席はさすがにどのクラブも10万円以上するという高級な折り畳み椅子を導入しているが、1階席には「この椅子で1万円以上も取るのか」と驚くベンチシートがあった。
音響も十分なスピーカーが用意されている会場はまだ例外的で、外から持ち込んで設営する手間が必要になっていた。「音が大き過ぎる」という苦情を知人から何度も聞いたが、高性能のスピーカーが入り、台数を増やせれば、程よい音量のセッティングも可能になるだろう。
付加価値を生みやすいアリーナ
ほぼ毎試合で満員となっている琉球では、1万人収容の新アリーナ計画が進んでいる 【素材提供:(C)B.LEAGUE】
「1万5000人収容のアリーナがあっても完売していただろうし、見る人のための施設を作ってほしい。やる人のための体育館は日本にいっぱいあるけれど、見る人のための非日常なものを。飲食とか全ての面において画期的なアリーナを作ることによって、バレーやバスケやバドミントンやハンドボールや卓球などの室内競技が発展していく」
アリーナは照明やビジョン、飲食などに配慮して設計された、非日常のおもてなし空間だ。室内競技はもちろんコンサートの場として需要が根強く、商業ベースで採算を取ることも十分に可能。少なくとも単なる大型体育館として建設するより付加価値を生みやすいし、ビジネスとして発展性のある施設になり得る。さらにスタジアム・アリーナの整備は経済産業省の「成長戦略」に明記された国策。30日のBリーグアワードショーではスポーツ庁の鈴木大地長官が「アリーナの建設に関して精いっぱいの後押しをしたい」と述べている。
幸いにして沖縄県沖縄市では、1万人収容の画期的な新アリーナ計画が進んでいる。2020年に完成する予定で、琉球のホームとして活用される見込みだ。栃木も22年の国民体育大会の1〜2年前をめどに、7〜8000人規模の新しい体育館が建設される。20年の東京五輪に向けては有明アリーナ、武蔵野の森総合スポーツプラザといった施設ができる。
アリーナ問題は大きな課題だが、Bリーグの“伸びしろ”でもある。この1年を振り返れば、選手やファンのエネルギーがリーグの発展、代表強化といった夢に結集されたことがまず大きかった。栃木や琉球の成功が証明するように、誠実な取り組みを5年、10年と続ければBリーグは更なる発展を見せるだろう。クリアするべきハードルはあるが、日本のバスケ界は間違いなく前に動き出している。