外国人が日本の独立Lでプレーする理由 決して楽ではない給料のその先に――

阿佐智

食うことができるNPBでのプレー

海外のいろいろなリーグをわたり歩いてきた信濃でプレーするバンバン。NPBへのチャンスを夢見て来日した彼らが日本の独立リーグのレベルを押し上げている 【阿佐智】

「別に向こうで数字残したからといって、特別待遇はしないんですけどね」

 先述のフロントスタッフは言う。基本、初来日の外国人選手の「初任給」は月15万円。この額は、彼らがアメリカで手にしていたものとさほど変わらない。しかし、アメリカでは、ビジターゲームの際は「ミールマネー」という別手当てが毎日2000円ほど払われ、シーズン中は旅から旅への毎日で基本生活費はほとんどかからない。野球で手にする報酬で貯金もできるくらいである。しかし、日本ではアパートを借りたり、試合のない日は自分で食事を準備しなければならないなど、何かと出費もかさむ。日本の独立リーグでプレーすることは実質減収ということになる。しかし、彼らはそれも承知で来日するという。

 その大きな理由は、やはりNPBでのプレーにある。裾野の広いアメリカでは「食えるリーグ」であるMLBに登りつめるのは至難の業である。その上、シーズン中のリリースは日常茶飯事。特にアメリカでも「外国人」であるラテンアメリカの選手は、リリースされた途端にビザの問題も生じてくる。そう考えると、シーズン途中でのリリースがあまりなく、またNPBへのチャンスもある日本の独立リーグでのプレーは、彼らにとって現実的な選択肢に入ってくるのはある種の必然である。また、彼らを顧客とする代理人にとっても、日本の独立リーグという行き先を確保することは自身のビジネス上で大きな武器になってくる。自分が日本に送り込んだ顧客の中からNPB入りする者が出れば、自分のビジネスチャンスも広がる。

オリックスと2度契約したカラバイヨ

 このような流れができたのは、2009年に来日し、現在も群馬ダイヤモンドペガサスでプレーするフランシスコ・カラバイヨがきっかけだとフロントスタッフは言う。はじめは四国アイランドリーグplusの高知ファイティングドッグスに入団し、最多本塁打と最多打点の二冠を獲得してチームを独立リーグ日本一に導いた大砲は、翌シーズンからはその日本一を争った群馬に移籍。ここでも圧倒的な長打力を見せ、その後2度にわたってNPBのオリックスと契約している。

 その結果、BCリーグでプレーする外国人選手には彼の出身国であるベネズエラ人が非常に多い。開幕時の外国人選手のリーグ総数21人中、6人がベネズエラ出身である。そのベネズエラ勢のリーダー的存在が、今年30歳を迎えたベテラン、ジョニー・セリスである。10年に関西独立リーグでプレーするために来日、その後BCリーグでプレーし続けている。その間、帰国したのは2度だけ。今では流暢に日本語を操るだけでなく、ひらがなは完全に読み書きできるようになった。NPB入りは現在まで果たせずにいるが、昨オフは、メジャーリーガーも多く所属する母国のウィンターリーグとの契約を手にした。  

 現在彼が所属する富山GRNサンダーバーズには、彼のほか、5人の外国人選手が在籍しているが、その構成はベネズエラ人とドミニカ共和国人が各2人ずつとアメリカ人というもの。ベネズエラ人の2人はともに「ジョニー・ルート」で獲得したもので、その中には、彼の関西時代の同僚、元NPB・福岡ソフトバンクのエディソン・バリオスも含まれている。

レベルを押し上げるマイナー経験者たち

 そして今シーズン、信濃でプレーする先発の柱、モンテーロ・ジョアン・ダニエルと主砲のジェウディー・バルデスは、その富山から押し出される形で移籍してきたという。ドミニカ共和国人の彼らは、ともにメジャー球団と契約ののち、ルーキー級ドミニカンサマーリーグでデビュー、その後、2Aまで上り詰めたが、25歳になったシーズン限りでリリースされている。

 この年齢が、(アメリカから見ての)外国人選手の壁であると多くの選手が口をそろえる。ビザの関係もあり、20代半ばでメジャーに上がれなかった外国人選手は見切りを入れられるのだ。彼らはその後、アメリカの独立リーグやドミニカ共和国より出場のチャンスがあり、報酬がいいというベネズエラのウィンターリーグを転々とした後、新天地として日本の独立リーグを選んだ。

 信濃には、彼らのほか、モンテーロの誘いで、ウィルトン・ロドリゲス(登録名バンバン)が来日して抑え役を任されている。彼もまた、メジャーリーガーも参加するドミニカやベネズエラのウィンターリーグを渡り歩いている。

 ちなみにアメリカでは2Aからプロと名乗るに足るプレーレベルとされている。そういう場でメジャー予備軍とプレーした経験がある彼らの存在は確実に日本の独立リーグのレベルを押し上げている。

2/2ページ

著者プロフィール

世界180カ国を巡ったライター。野球も世界15カ国で取材。その豊富な経験を生かして『ベースボールマガジン』、『週刊ベースボール』(以上ベースボールマガジン社)、『読む野球』(主婦の友社)などに寄稿している。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント