フランスを駆け抜けたモナコ旋風 三つどもえの優勝争いを制した4つの理由

木村かや子

要所で効いたジャルディムの采配

ファビーニョをボランチとして起用するなど、ジャルディム監督(右)の戦術・采配能力も光った 【写真:ロイター/アフロ】

 3番目の要因は、ポルトガル人監督ジャルディムの戦術・采配能力だ。クラウディオ・ラニエリの跡を継ぎ、14−15シーズンからモナコの指揮を執ったジャルディムは、就任当初からローテーションのうまさ、必要に応じて陣形に手を加え、選手たちにもその変化に順応する力をつけさせたこと、そして適材適所で選手を使う能力などで、高く評価されていた。

 モナコは今季の序盤、ファルカオとジェルマン、またギド・カリージョをFWで使い、順調に得点も挙げていた。だが、指揮官はその間にもムバッペら若手を巧みに途中起用し、皆が少しずつプレー時間を得られるよう、また主力が疲れすぎないよう操作していた。

 そして若手が力を見せ始めれば、彼らをためらわずに使い、出番の減ったジェルマンらも要所で起用。途中出場したジェルマンが数分のうちに得点するという場面も見られた。さらに元々SBとして加入したファビーニョをボランチで起用して成功を収めると、彼はその位置に定着することになった。

 まだ調子の出ていなかったPSGを3−1で破った第3節では、通常右SBのシディベをサイドハーフにし、右SBの位置により守備力の高いベテランDFアンドレア・ラッジを入れて二重の帳を作った。これにより、当時機動力のあった、PSGの左ウイングからの攻撃を封じることに成功。そこかしこで、指揮官は戦術的な能力の高さも見せていた。

 何より彼はそれを、ファルカオを除けば、世界的にはそう有名ではない選手たちでやってのけている。モナコの予算はPSG、リヨンに次ぎフランスで3位と、どちらかといえば裕福なクラブではあるが、それでも額としてはPSGの3分の1にも満たない。昨年ローラン・ブランが率いていたPSGで言われていたように、放っておけば選手たちが勝手にやってくれるというわけにはいかないのだ。

ライバルPSGのもたつきも無視できない

ウナイ・エメリ(左)のもと、新たなスタートを切ったPSGだったが、序盤のつまずきが痛かった 【写真:ロイター/アフロ】

 そして最後に、無視できないモナコ優勝の秘密は、前年度覇者PSGの、シーズン序盤のつまずきだ。監督を変え、ズラタン・イブラヒモビッチを失ったPSGが、その変化に適応するには、それなりの時間がかかった。カルロ・アンチェロッティでさえPSG就任初年度には優勝を逃したことを考えれば、これは仕方がないことなのだろう。セビージャから来たウナイ・エメリ新監督は、フランスリーグのことも、新チームのこともあまりよく知らず、何より自分の色を加えようと、最初はチームをよくいじった。

 GKをはじめ人員の選択にも疑問の声が挙がる中、前述の対モナコの敗戦に加え、第7節でトゥールーズに0−2で敗れるという一大事も起き、チーム内で不安感が増大。チアゴ・シウバ、ブレーズ・マテュイディら主力が選手代表として監督に直談判し、「自分たちが得意とするのはポゼッションをベースにした攻撃的サッカーだ」と訴える事態にさえなった。エメリ監督も意固地ではなく、状況は徐々に改善されていくのだが、この前半戦のもたつきで落とした勝ち点が、PSGにとってはのちに高くつくことになるのである。

 モナコは、攻撃の勢いこそピカイチだが、CLで露呈した通り、後半に気が緩んで失点することもあるチームで、総合力で言えばおそらくPSGが上。PSGが不振の時期にモナコがPSGに勝ち、復調後の直接対決となった第22節を1−1の引き分けで凌いだことも大きかった。とはいえ、毎試合の積み重ねであるリーグ戦で優勝をつかめた見逃せない要因は、ライバルのPSGが前半戦にポイントを取りこぼしてくれたことだった。

 モナコは、予選から戦ったCLでもカップ戦でも勝ち残り、今季フランスで試合数が一番多かった。若い選手は大勢いるが、PSGほど層が厚くないチームで戦い、それでも勝ち点3差の競り合いとなったシーズン終盤、疲れから負け始めるようなことがなかったのは、ジャルディム監督のローテンションのうまさの成果でもあっただろう。

この快挙はまた一度の花火で終わるのか

若手の引き抜きがうわさされるが、モナコは来シーズンも競争力を保つことができるか 【写真:ロイター/アフロ】

 こうして、「若手の開花」「ファルカオの復調」「監督の采配」「ライバルのつまずき」と、複数の要素が重なり、モナコの優勝が実現した。彼らはまた、予選から勝ち上がってCLベスト4まで勝ち上がったフランスで初のクラブでもある。モナコは今後も、PSGのライバル的存在であり続けるだろうが、同時にこれは繰り返すのが難しい殊勲でもある。

 裕福とはいえモナコには、たとえばレアル・マドリーなどから勧誘された選手を、引き留められるだけの力はない。ムバッペ他、今季活躍した若手たちを引き抜こうと、ビッグクラブがすでに動いているようだ。

 それでも6−0、7−0など、ときにテニスのスコアかそれ以上で勝つ、攻撃的サッカーでフランスを沸かせたモナコは、美しい歴史の1ページを刻んだ。11年にモナコがリーグ2の最下位にいたときにクラブを買い取ったロシアのビジネスマン、ディミトリ・リボロフレフ氏が、いつかモナコを再びチャンピオンにすると言ったことを、ファンは覚えているだろうか。

 数年前に撒かれた種が、皆が期待するのを忘れたころに芽を出した。それにしても、PSGが大枚をはたき、6年頑張り続けても果たせない悲願のCLベスト4進出までやってのけるとは、モナコはツキも持っているクラブのようである。

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著者プロフィール

東京生まれ、湘南育ち、南仏在住。1986年、フェリス女学院大学国文科卒業後、雑誌社でスポーツ専門の取材記者として働き始め、95年にオーストラリア・シドニー支局に赴任。この年から、毎夏はるばるイタリアやイングランドに出向き、オーストラリア仕込みのイタリア語とオージー英語を使って、サッカー選手のインタビューを始める。遠方から欧州サッカーを担当し続けた後、2003年に同社ヨーロッパ通信員となり、文学以外でフランスに興味がなかったもののフランスへ。マルセイユの試合にはもれなく足を運び取材している。

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