【ボクシング】天然かつ闘争心ある新王者が誕生 拳四朗、薄氷の勝利に「まだまだ」

船橋真二郎

父との約束「ベルトは最初に」

WBC世界ライトフライ級の新王者となった拳四朗(右)。約束通り父・寺地会長にベルトを掛けた 【赤坂直人/スポーツナビ】

 こんな世界チャンピオンもなかなかいないだろう。勝利の瞬間、ベビーフェイスいっぱいの笑顔をテレビカメラに向けて、両手でピースサイン。無邪気に喜んでみせる25歳の姿は無垢(むく)そのものだった。

 5月20日、東京・有明コロシアムで開催されたトリプル世界タイトルマッチ。その先陣となるWBC世界ライトフライ級タイトルマッチは、チャレンジャーで同級4位の拳四朗(BMB)が王者のガニガン・ロペス(メキシコ)を2−0(115−113、115−113、114−114)の判定で下し、新チャンピオンになった。

 WBCの緑のベルトは、自ら真っ先に父・寺地永(ひさし)BMBジム会長の腰に巻き、「ベルトは最初にお父さんに掛けてあげたい」という約束を果たした。元東洋太平洋ライトヘビー級、日本ミドル級王者で「現役時代が不完全燃焼で終わり、まだ現役の気持ちを引きずっているところがある。拳四朗が世界を獲れば、私も『引退できるな』という思いがあります」と話していた寺地会長から、今度はベルトを孝行息子の腰へ。そんな親子の光景もほのぼのとして見えた。

 だが、笑顔は満開でも、拳四朗自身が「内容はちょっと。全然良くなかったんで『(判定は)どっちやろう?』と思っていましたね」と振り返ったように、能力全開とまではいかない薄氷の勝利だった。

王者の老かいさに苦戦

勝利はしたものの、ロペスの老かいさに苦しみ、最後までペースを安定させることはできなかった 【写真:アフロスポーツ】

 最後までペースを安定させることができなかった。拳四朗の生命線は左ジャブ。サウスポーに対しても、あくまで左のリードブローをいかに当てるかに磨きをかけてきた。スパーリングを重ね、対サウスポーに自信を深めてきたが「やっぱり、オーソドックス(右構え)より距離が遠かった。ジャブが当たるときもあったけど、当たりにくいときもあって、悩みながら戦ってしまっていた」。これまでなら、テンポも手数も次第に上がっていくのだが、老かいな35歳のサウスポーに思うようにさせてはもらえなかった。

 それでも序盤は、拳四朗が左ジャブから右カウンターのタイミングを少しずつつかんでいるように見えた。ペースが変わるのは4ラウンド終了時の公開採点。39−37が2者に、38−38が1者の2−0で拳四朗リード。ポイントビハインドの王者が圧力を強める。これに対応しきれず、上下に打ち分けてくる左をもらった。ところどころに右カウンターを打ち返したものの、単発止まりがせいぜい。受けに回る形でラウンドを重ねた。

 活路を開きかけたのは7ラウンド終了間際。ロペスの踏み込み際に果敢に1発、2発と正面から右ボディアッパーを打ち込み、勢いを削いだ。続く8ラウンドはこの右ボディを軸に攻勢に転じ、再びペースを引き寄せる。こつこつジャブを浴びたロペスの右目の周囲は腫れ、動きも落ちてきた。8ラウンド終了時のスコアはジャッジ全員が77−75で拳四朗を支持。ここから厳しく攻め続ければ、あるいは、と期待も高まりかけたのだが……。

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著者プロフィール

1973年生まれ。東京都出身。『ボクシング・ビート』(フィットネススポーツ)、『ボクシング・マガジン』(ベースボールマガジン社=2022年7月休刊)など、ボクシングを取材し、執筆。文藝春秋Number第13回スポーツノンフィクション新人賞最終候補(2005年)。東日本ボクシング協会が選出する月間賞の選考委員も務める。

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