フェイエの生ける伝説となったカイト “ベテラン力”を発揮、優勝の立役者に

中田徹

完敗の後、迎えた最終節

18年ぶりにリーグ優勝を果たし、シャーレを掲げるキャプテンのカイト 【写真:ロイター/アフロ】

 今季のフェイエノールトは開幕戦でフローニンゲンを5−0と破る幸先の良いスタートを切ってから、ずっと首位の座を保っていた。5月7日の第33節、「勝てば優勝」という試合で当たったのは、ロッテルダムの小クラブ、エクセルシオールだった。

 何しろ、エクセルシオールのスタジアムは4500人収容と極端に小さい。あの手この手でサポーターはチケット入手に励み、中には、この優勝の瞬間を見逃すまいと、1月ごろにシーズン後半戦用のシーズンチケットを買ったフェイエノールトサポーターもいたという。しかし、緊張がたたってしまったのか、フェイエノールトは0−3というまさかの完敗を喫することになった。

 14日のリーグ最終戦、首位フェイエノールトは地元スタディオン・フェイエノールトに9位ヘラクレスを迎えた。スタジアムには約5万人の観客が、ロッテルダムの町には全国から駆け付けた10万人のサポーターが、固唾(かたず)をのんでキックオフの笛を待った。2位アヤックスとの差は、わずか勝ち点1しかなかった。

 フェイエノールトは18年間もリーグ優勝から遠ざかっていた。前節は格下相手に“0−3”で負けてしまった――。最終戦で「緊張するな」と言うのは、彼らにとって無理な注文だった。

 だからこそ、キックオフから38秒で先制ゴールを決めたディルク・カイトの“ベテラン力”が際立った。サポーターがたいた煙がまだピッチの上に残っている中、スローインを得たフェイエノールトは、とっさにジオバンニ・ファン・ブロンクホルスト監督がボールを右サイドバックのバート・ニーウコープに渡して、スローインからのショートカウンターを狙った。慌てたヘラクレスのDFが足をすべらせてボールの処理を誤ると、こぼれたボールにカイトが右足を振り抜き、フェイエノールダーの「アンチクライマックスへの恐れ」を開放したのだ。

カイトがハットトリック、生ける伝説となる

カイト(中央)は最終戦でハットトリックを記録し、チームを15回目の優勝に導いた 【写真:ロイター/アフロ】

 36歳のベテラン、カイトはチームのキャプテンを務めているが、だからと言ってレギュラーの座が確約されていたわけではなかった。ヘラクレス戦の先発も、エクセルシオール戦でイエローカードを受けたトニー・ビレーナが出場停止になったから、巡ってきたものだった。

「毎試合、90分間プレーしたい」という自信と意欲を持つカイトと、「コンディションを維持してシーズンを乗り切ってほしい」と願うファン・ブロンクホルスト監督との間に緊張が生まれたこともあった。しかし、カイトは、今の“セミレギュラー”という役割を受け入れて、フェイエノールトの18年ぶりの優勝のために力を注いできた。

 先制ゴールを決めた後のカイトは、自陣に走ってスライディングでチームのピンチを事前に摘むなど、シーズン大詰めを迎えてもトップフィットだったのは明らかだった。12分には左ウインガー、エルジロ・エリアのクロスにダイビングヘッドで2点目を決め、84分にはPKでハットトリックを完成させた。

 ピッチの上でスティーブン・ベルフハウスとヤン・アリー・ファン・デル・ハイデンがFKのキッカーをめぐって不穏なムードを漂わせると、すかさずカイトが両者の肩を抱いてなだめにかかった。ピッチの外では、今シーズン半ばに母を失い、悲しみに暮れたビレーナの家に「最高の母の日にしてみせる」と電話をかけた。こうしてピッチの内外で究極の役割を果たしたカイトは、チームを3−1の勝利、15回目の優勝に導き、生ける伝説となった。

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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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