フェイエの生ける伝説となったカイト “ベテラン力”を発揮、優勝の立役者に

中田徹

15万人が集まった「コールシンゲル」

優勝翌日の15日、コールシンゲルを祝うため、15万人のサポーターがロッテルダムに集まった 【Getty Images】

 優勝翌日の15日、コールシンゲルを祝うため、15万人のサポーターがロッテルダムに集まった。「コールシンゲル」とは、ロッテルダム市庁舎の前を東西に横切る通りの名前。片側1車線の道路とトラムの線路があり、日頃から市民で賑わう通りだが、それほど大きなものでもない。しかし、優勝翌日のコールシンゲルは、市庁舎のバルコニーに現れ優勝盾を掲げる選手たちを一目見ようと、15万人の人波で「細長い大広場」と化すのだ。

 昼の12時すぎ、大勢のファンの前でカイトは「18年も待ちに待った優勝だ。しかし、みんなは決して諦めなかった。世代から世代、世代から世代を超えて待ち続けていたことだ。そしてついに、われわれはチャンピオンになった! 俺たちが優勝だ! 今、町に15万に集まっている。カッコよすぎる」と叫んだ。

 それから「昨年、ユーロ(欧州選手権)でアイスランドが素晴らしい応援をやったよね」と手拍子によるバイキング・チャントをファンに促したが、その瞬間、「俺たちがやりたいのはアイスランドのまね事じゃない」という空気がコールシンゲルに漂い、「ディルク・カイト、オレ、オレー! ディルク・カイト、オレ、オレー! ディルク・カイト! ディルク・カイト! ディルク・カイト、オレ、オレー!」というおなじみのチャントが熱唱された。それでも諦めずカイトは「俺の後に続け!」と両手を広げると、30万本の手がバイキング・チャントを奏でた。

 コールシンゲルは、たった30分ほどの短い儀式だったが、このために朝早くからサポーターは通りを埋める。言い換えれば、コールシンゲルを夢見て、フェイエノールトは毎シーズン、優勝を目指して戦ってきたのだ。それは1999年夏からの長い日々だった。

 2002年のUEFAカップ(現ヨーロッパリーグ)優勝という偉業を果たした時は、ちょうどピム・フォルタウンという政治家の暗殺と重なってしまい、コールシンゲルは開かれなかった。08年にKNVBカップを獲得した時にコールシンゲルが開かれたが、国内カップ戦というステータスのせいか、私も簡単に市庁舎の目の前まで行ってセレモニーを見ることができた。しかし、今回のコールシンゲルは、とても選手たちを肉眼で見ることはできないほどの人だかりだった。

フェイエノールトを育てた10−11シーズンの出来事

フェイエノールトはサポーターの愛が盲目で、時に宗教にたとえられる 【写真:ロイター/アフロ】

 思い出すのは10位で終わった10−11シーズンだ。10年10月24日、フェイエノールトは0−10でPSVに敗れる失態を冒し、「もしかしたら2部に降格するのではないか?」という危機に陥った。

“0対10”というスコアに、最初はサポーターも怒りと恥ずかしさを覚えた。しかし、「罵声はチームを育てない」と気付き、練習場ではマリオ・ベーン監督や選手の肩をたたいて励ました。次のVVV戦ではスタジアムが満員になり、選手たちがウォーミングアップのためにピッチに姿を現すと、サポーターは『ウィー・ラブ・フェイエノールト、ウィー・ドゥー』と歌って、「俺たちはどんな辛い時でも、一緒に戦う」といい意思を強く表明したのだ。

 結局、フェイエノールトは3−0でVVVを下した。あのサポーターの温かい声援が、その後のフェイエノールトを育てたのだと私は思っている。ピッチに立ったジョルジニオ・ワイナルドゥム、ステファン・デ・フライ、レロイ・フェル、ブルーノ・マルティンス・インディはやがて14年のワールドカップで3位になるオランダ代表の一員になった。

 フェイエノールトは時に宗教にたとえられるが、それもサポーターの愛が盲目で、チームの成績と比例しないぐらいのビッグクラブだからだろう。カイトのフェイエノールトへの思いも同じく熱い。彼は03年から06年の間、優勝するには力の足りなかったフェイエノールトで71ゴールも決めて、サポーターからカルト的な人気を誇っており、その愛ゆえに15年、フェイエノールトに復帰した。当時、代理人に「フェイエノールトを優勝させたいんだ」と言った時は、涙を流すほど笑われたそうだが、1年目はKNVBカップ優勝、2年目にリーグ優勝という結果を残した。そして代理人は感動の涙を流した。

「馬力のあるプレー」という表現がピッタリのパワーでチームを引っ張ったカイトは「まだ肉体的にはトップフィット」と言うが、「精神的に空っぽになってしまった」ということもあって、引退がうわさされている。近々、カイトは来季以降のことについてクラブと話し合う予定で、できれば来季のチャンピオンズリーグでチームを引っ張る姿を見てみたいが、レジェンドの決断はいかなるものでもリスペクトされるべきだ。

 オランダサッカーの聖地でもあるスタディオン・フェイエノールト、“デ・カイプ”は、いよいよその役目を終えようとしており、22−23シーズンからフェイエノールト・シティという新たなスタジアムが使われる。この時には、実力(3年に1回の優勝)も伴ったビッグクラブにフェイエノールトは生まれ変わるだろう。

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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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