勝ち切れないFC今治の不思議 失点は止まるも2連続でスコアレスドロー
大量失点か、それともスコアレスドローか
福山での“ホームゲーム”のセレモニーに臨む岡田武史オーナー(左)。背景に荒れたピッチが見える 【宇都宮徹壱】
今治から福山までは、1時間40分ほどのドライブ。客層は、今治在住の年配の方々が多く、若者の姿はほぼ皆無であった。道中、ツアーコンダクターの話術が実に巧みで、退屈することはなかった。ヴェルスパ大分戦や奈良クラブ戦のアウェーツアーでの苦労話を、地元の言葉で冗談まじりに語る独特の話術に、お客さんたちも大喜び。ツアーバスには、FC今治の前身である今越フットボールクラブを立ち上げ、現在は育成アドバイザーを務める矢野敏宣さんも乗車していて、最近のクラブの内情について解説してくれた。取材者として、大変参考になったことを付記しておきたい。
さて、前回の今治のゲームを取材したのは4月16日、ブリオベッカ浦安とのアウェー戦である(2−0で今治が勝利)。実はその後、5月3日に行われた東京武蔵野シティFC戦とのアウェー戦は、いち観客としてスタンド観戦していた。自宅から近い武蔵野陸上競技場で、今治の試合をプライベート観戦できるのは、全国リーグに舞台を移した今季だからこそできる贅沢(ぜいたく)である。ところが試合は、まさかの0−3の大敗。大幅にスターティングメンバーを替え、しかも慣れない3バックに臨んだこともあって、自陣でのパスミスから立て続けに失点を食らっていた。
実はその前から、今治の大量失点は続いていた。4月23日のFC琉球(J3)との天皇杯1回戦は5−5(PK戦で今治が勝利)。29日の奈良クラブとのアウェー戦は3−3。そして前節、5月7日の栃木ウーヴァFCとのアウェー戦は、守備が破綻することはなかったものの、攻撃力は影を潜めてスコアレスドローに終わった。今季の今治は、打ち合いの展開では勝ち切れず、逆にゼロ失点のときはゴールを奪えない状況が続いている。快勝と言えるのは、2−0で勝利した浦安戦のみ。加えて、ここまでホームでの勝利はひとつもない。
「同期」で昇格した三重との負けられない戦い
今治とは「同期」のヴィアティン三重。クラブカラーはオレンジだが、この日はセカンドの白で登場 【宇都宮徹壱】
ヴィアティン三重のクラブの由来は、オランダ語の「Veertien(14の意味。現地での発音はフィールティン)」に由来する。14と言えば、昨年に死去したヨハン・クライフの代名詞であり、クラブカラーのオレンジ、そしてエンブレムに描かれたライオンは、いずれもオランダ代表から着想を得たものである。クラブが設立された2012年から「地域に根差した総合型スポーツクラブ」を目指しており、とりわけオランダにおける地域スポーツコミュニティーへの憧憬(しょうけい)が、そのままクラブ名やチームカラーに反映されている。
驚くべきは、その昇格のスピード。12年に三重県3部からスタートして、2部、1部、東海2部、1部と毎年のようにカテゴリーを上げてきた。三重県には、先行してJリーグ入りを目指す鈴鹿アンリミテッドFCというクラブがあったが、その先輩格をまたたく間に抜き去って、ついにはアマチュアの頂点に達した。象徴的だったのが、地域CL決勝ラウンドの最終戦。昨シーズンは東海リーグを含めて5試合を戦い、一度も鈴鹿に勝てなかった三重であったが、JFL昇格を懸けた最終戦では4−1で圧倒、残酷なダービーを制している。
三重を率いる海津英志監督は、地元の暁高校の教員でサッカー部監督をしていた経歴を持つ(愛媛FCの間瀬秀一監督は教え子の1人)。試合に応じて柔軟に戦術を変え、相手のウイークポイントを効果的に突くことで、昨年の全社(全国社会人サッカー選手権大会)ではいわきFCを、そして地域CL1次ラウンドでは今治を破った。今治の吉武博文監督も教員出身であるが、理想とするスタイルへのこだわりという点で、両者は真逆のタイプと言えるだろう。
今治と三重の顔合わせについて、もう一点だけ指摘しておきたい。地域CLの前身である地域決勝の時代から、同期でJFL昇格を果たしたクラブ同士には、当事者同士にしか分からない「敵愾(てきがい)心」いうものがある。08年大会でのFC町田ゼルビアとV・ファーレン長崎しかり、12年大会でのSC相模原と福島ユナイテッドFCしかり、14年大会の奈良クラブとFC大阪またしかり。今治と三重もまた、昨年の地域CLでの激闘を経て、そうしたライバル関係を紡いでいくのではないかと密かに期待している。