勝ち切れないFC今治の不思議 失点は止まるも2連続でスコアレスドロー

宇都宮徹壱

福山の荒れたピッチに戦い方を変えた三重

この日の今治はポゼッションで相手を上回るものの、攻撃面での迫力はほとんど感じられなかった 【宇都宮徹壱】

 キックオフは13時。この日の福山は気温が27.8度で、ピッチ上での体感気温は30度近かった。しかもピッチはかなり荒れていて、ところどころ剥げかかっている(それでも吉武監督いわく「前にやったびんご(運動公園球技場)に比べると、まだまし」だそうだ)。この日の今治のスタメンは、前節の栃木戦から2人代わっているが、特に大きなサプライズはなし。対する三重は、鈴鹿から獲得した野口遼太と北野純也がスタメン出場。“前鈴鹿”といえば、今治のベンチにも小澤司がおり、JFL昇格を逃したクラブの苛烈な「その後」を見る思いがする。

 前半はアウェーの三重のほうがチャンスを作っていた。この試合での彼らのテーマは「失点をゼロで抑えること」。今季はここまで、常に1点以上の失点をしており、第8節終了時点で4敗を喫している。ただし、引いてがっちり守るというわけではない。海津監督は「今日のピッチ状態を見て、今治さんのパススピードはそれほど上がらないと思った。普段は自陣で(ボールを)奪うようにしていますが、パスのスピードが上がらないのであれば前からいこう」と選手に指示したという。そうした判断から三重が積極的に出てきたこともあり、前半の今治は決定機が作れないまま0−0でハーフタイムを迎える。

 エンドが替わった後半は、今治がポゼッション率を高めていき、次第にチャンスを作っていくようになる。だが、ゴール裏でカメラを構えていた私は、次第にスコアレスドローの予感を抑えきれなくなっていた。この日の今治は、右の玉城峻吾と左の中野圭の両サイドバックが攻撃のリズムを作り、インサイドハーフの三田尚希がポジションを変えながらラストパスを送り、そして左ワイドの可児壮隆が積極的にシュートを放っていた。先の武蔵野戦に比べて、プレーや連係にほとんどミスは見られず、パスもよく回っている。しかしながら今治の攻撃には、迫力やすごみといったものがあまり感じられなかった。

 もちろんベンチも手をこまねいていたわけではない。後半24分には可児に代わって長島滉大が、そして35分には長尾善公に代わって水谷拓磨が、それぞれ投入された。とりわけドリブルを得意とする長島の起用は、昨年の地域CL決勝ラウンドで三重に大勝する切り札となっていただけに、大いに期待が持てる交代に感じられた。だが、これらのベンチワークも戦況に劇的な変化をもたらすには至らず。ゲーム終盤は、フィジカルで勝る相手に押し込まれる展開が続き、何とかこれをしのいでタイムアップとなった。今治のスコアレスドローは、これで今季4試合目。ホーム初勝利は、またしてもお預けとなった。

1試合平均で得点「2」、失点「0.5」にするために

試合後の会見での吉武博文監督。ゴールへの解について「さらなるボールポゼッションが必要」と語る 【宇都宮徹壱】

「引き分けが続いているが、冷静に見れば(対戦相手との)力は同じ。ドローという結果は順当かと思う」──会見の冒頭でこう語っていた今治の吉武監督。しかしその表情には「何でこんなに勝てないのか」という自問自答がにじみ出ているように感じられる。9試合を終えて、勝利は浦安戦のみ。逆に「完敗」と言えるのも武蔵野戦だけである。後半34分のセットプレーからの失点に沈んだ、第4節のラインメール青森戦は、限りなくスコアレスドローに近い内容であった(結果は0−1)。そして複数得点しながらも、追いつかれてドローに終わったのが2試合。以上が、1勝6分け2敗の内訳である。

 大量失点がおさまったと思ったら、今度は点が取れない。「何か因果関係はあるのか」と質問したところ、今治の指揮官の答えは「どうでしょうね。因果関係が分かる人がいれば教えてほしい」と、珍しく気弱な答えが返ってきた。その一方で「ウチの失点は2通りあって、自分たちのミスによるものと、相手のスーパーゴールによるもの。相手に崩されて、というものはあまりない」という指揮官のコメントは、それなりに納得できるものではあった。「ミスによるもの」は武蔵野戦、「スーパーゴールによるもの」は琉球との天皇杯で見られたシーンだが、完全に崩されたケースは今季ほとんど記憶にない。

 吉武監督は、今季の目標として1試合平均の得点を「2」、失点を「0.5」としている。現状では、1試合平均の得点が「0.78」で失点が「1」。どちらも非常に不本意な数字である。とはいえ、リーグ戦で2試合続いた大量失点は収束傾向にあるため、試合を重ねるごとに目標の数値に近づけることは可能だろう。問題は得点力のアップ。吉武監督は、その解決策として「さらなるボールポゼッション」を挙げている。

「今日は(ボール保持が45分中)18〜19分くらいだと思うんです。インプレーが33分、今日は30分くらいだったと思うんですが、そのうち25分くらいまで持っていけるかどうか。相手が持っていなければ、失点をすることがないわけですから。ストライカー不在であっても点を取るには、もっともっと(ボール保持の)時間を作らないと」

 どんな相手に対してでも、ポゼッションで圧倒して2点差以上で勝ち切る。うんと分かりやすく言えば、それが吉武監督の思い描く理想のサッカーである。昨年は地域CL突破のために、最後は現実路線に舵を切らざるを得なかった。しかしJFLとなった今季は、ファーストステージ、セカンドステージ、そして総合順位と、J3昇格に向けて3つのチャンスがある。まずはファーストを捨てても、自らが目指すサッカーを追求するということで、おそらくクラブ内のコンセンサスが取れているのだろう。だとしたら、こうした「勝ち切れない試合」が今後も続く可能性は十分に考えられる。チームのみならずサポーターもまた、もうしばらく忍耐が求められることになりそうだ。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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