シンクロ井村コーチも苦労する小型化 メダルの色を変える“手のひら”分の差

沢田聡子

「選手は高さを勘違いしている」

井村コーチは選手たちに「10センチ、15センチ」の意識改革を求める 【写真:アフロスポーツ】

 新チームは「泳ぐスピードはある」と井村コーチは評価している。「それは(リオ五輪前)14年の苦労した時に較べたら大分違います。それはいいところだと思いますけど、高さに関してはもう絶対勘違いしています」。選手の目指す高さが違っているというのだが、具体的に井村コーチの目指す高さとはどれぐらい違うのだろうか?

「体の立ち泳ぎとか、手の動作においては、15センチぐらい。全然ランクが違う。足に関しては10センチぐらい。そこを克服しないと、私達の体型でメダルを取ってもう一つ(先に)いこうか、って言った時に、無理ですって。そこがやっぱり日本選手の課題ですから。それを克服しないと」

 15センチと言えば手のひらの長さにも満たないが、その分の体が水上に出ているか否かは、世界トップのシンクロにおいては大きな違いになる。

 加えて、明確な泳ぎを目指していく意向を示した。
「隊形の明確さ、クリアさ。新しい選手が入ったから、自分の場所を確実に守れない。それは技術の未熟さからくる」

 明確になった課題を克服するため井村コーチは、上体の体積・存在感を増すためのトレーニングを積んでいくと語った。3月に行ったヨーロッパ遠征では経験の少ない新チームに試合の場数を踏ませてきたが、これからは合宿で鍛えていくという。

 また、リオ五輪と同じ曲で泳ぐチームのTR・FRは、井村コーチの目には「いやまだまだ。(目指す演技の出来栄えの)30%、40%。そんな世界です」と映ったという。

「あくまでもリオの時の(演技という)目指すものが一つあって、それを超えなければいけないです。切れ味とかスピード感とか、見本があるので、まずそこまでいかせることが先ですよね。積み立ててそこへいかすというよりも、あの子達の意識がまったく違うので。

 それを分かれば、ある時ボーンって上がると思うんですよ。徐々に徐々に、という問題じゃないんですよね。高さについては(基準が)『これなんだ』って分かればそこにくると思うんです。これからそういう伸び方をするんじゃないかなって。そういう伸び方ができる課題だと思っています」

メダル常連国の格付けを死守できるか

 ジャパンオープンを見守った金子正子前シンクロ委員長は東京五輪まで「もう時間がない」と語る。

「3年後にまさにこの場所で五輪が行われるんだから、(リオと)同じメダルではすまない。少なくとも一つは銀メダル以上のものを取らなければ、日本のシンクロをやってきた甲斐がない。みんながそれに向かって一丸となってほしい」

 シンクロ関係者の熱いエール、体格差のハンディを背負ってチームを指揮する井村コーチの思いを、選手はよく分かっている。リオ五輪にも出場し、今ではチームのまとめ役としても活躍する丸茂圭衣(井村シンクロクラブ)は、世界選手権、さらに東京五輪を見据えた決意を問われてこう答えている。

「リオ五輪でもそうなんですけど、その前の世界水泳(2015年カザン大会)でもメダルを取らせてもらって、日本はメダルを取れる国だ、という認識になってきているので、それを絶対に手放してはいけない。世界水泳ではメダルはもちろん、昨年よりもいい色のメダルを目指してやっていきたいと思います」

 2カ月半後、ブダペストで、マーメイドジャパンは東京五輪の表彰台へ向けて発進する。

2/2ページ

著者プロフィール

1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。主に採点競技(アーティスティックスイミング等)やアイスホッケーを取材して雑誌やウェブに寄稿、現在に至る。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント