諦めないから“野球の神”が見捨てないーー春の東京を制した早実・清宮幸太郎の檄

清水岳志

どんな点差でも諦めないチームカラー

春季都大会で2打席連続本塁打を放ち、早稲田実を35年ぶり優勝に導いた清宮。高校通算本塁打を84本まで伸ばした 【写真は共同】

 センバツ2回戦の東海大福岡に敗れたのが3月27日。それから、ちょうど1カ月後の4月27日、早稲田実は春季東京大会を制した。ヤクルトなどで活躍した荒木大輔氏が3年でエースだった時以来、35年ぶりのことだ。

 ここであらためて記す――「諦めない」という言葉を。付け加えれば「動じない」という言葉も。清宮幸太郎キャプテンの率いる早稲田実のキーワードだ。

 都大会準決勝の国士舘戦、初回にいきなり5点を先制される。ややもすれば、気勢を削がれてもおかしくない。だが、主将の清宮幸太郎は「諦めず1点でも返していこう」とナインに声をかけたという。和泉実監督も「このチームはキャプテンを中心にどんな点差になろうとも諦めない。そのカラーが全員に染みついてる」と言う。結果、8回の1イニングで10点を取り、16対8の8回コールド勝ちを収めた。

「もうダメかなと思った」9回裏に――

 そして日大三との決勝もそうだった。9回裏、最後の攻撃を残すのみで4点差。

「もう、だめかな、ヤバいかなと思いましたよ。さすがに」

 ゲーム後の囲み取材で実は清宮は笑ったが、雪山幹太のタイムリー、自らの同点3ランで追いついて、延長12回で逆転勝ちした。

 思えば、センバツ1回戦の明徳義塾戦。9回2死、清宮の前の2番打者・横山優斗のピッチャーゴロを相手投手がエラー。これをきっかけに同点に追いついて、最後は延長で逆転した。「早実には野球の神様がついとる」と明徳義塾の馬淵史郎監督に言わしめた。いや、どうだろう。神様が勝たせてくれるのではなく、“諦めない”から“野球の神様”が見捨てないのだ。

課題の勝負所で出た同点3ラン

 秋の都大会決勝の再戦となった日大三戦。山がいくつもあり、流れが何回も入れ替わる。ゲーム展開の詳細を説明していくにはスペースが足りない。結局、延長12回、18対17で早稲田実がサヨナラ勝ちした。「点を取っても取っても、取られて。また、取られて。楽しさすらあった」と清宮は言った。

 11対10と1点リードの8回裏、清宮は2ランを放つ。2ボールから外角のストレートをファウルした後の4球目、「ストレートを狙っていて仕留められた」。3球目より少し甘く中に入ったボールだった。

 そして、前述の9回裏。1点を返し、なおも走者を2人置いて3ランなら同点という場面を迎える。

「4打席目にスライダーで空振り三振に打ち取られていたので、スライダーを狙っていた。ああいう勝負所で打つことを課題にやっていたので、成果が出た」

「思わず、ガッツポーズが出ちゃいました」という打球はセンターバックスクリーンの左横の中段まで飛んで行った。

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著者プロフィール

1963年、長野県生まれ。ベースボール・マガジン社を退社後、週刊誌の記者を経てフリーに。「ホームラン」「読む野球」などに寄稿。野球を中心にスポーツの取材に携わる。

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