諦めないから“野球の神”が見捨てないーー春の東京を制した早実・清宮幸太郎の檄

清水岳志

ノーアーチも心配していなかった監督

春季都大会決勝で日大三高に延長12回サヨナラ勝ちし、ベンチを飛び出す清宮(左から2人目)ら早実ナイン。清宮の諦めない姿勢がチームに浸透している 【写真は共同】

 これで清宮の通算本塁打は84本になった。センバツ2試合では「自分が打てなくて負けた。ほんとに悔しい」と4安打を放つも、通算80号となる一発は出なかった。

 帰京から9日後には都大会に突入。最初の3試合はライナー性の単打は出るが凡フライあり、ひっかけた凡ゴロあり。「調子が良くない」と認めていた。バットを変えたり、グラブを変えたり。「気分っす」とはぐらかした。

 あるゲームで、強引にボール球に手を出して内野ゴロに。「なんで手を出しっちゃたのかなぁ」と首をかしげる。また、あるゲーム後には、「良くなってる実感はあります。いや、そう思いたいです」と珍しく小さな声のコメントもあった。桜は真っ盛りの初春なのに……。

 だが、和泉監督は心配はしていなかったという。

「彼はブレてないし、練習では悪くなかった。(スランプを)かいくぐっていけると信じてるんで」

準々決勝の2本塁打が復調のきっかけ

 80号が出たのが準々決勝の駒大戦。評判の左腕・吉田永遠からライトへ清宮らしい弧を描いた。次の打席でも左に打ち上げた飛球が「風に押されたと思います」(清宮)と左中間スタンドに届いた。ゲーム後、「センバツから続いていた不調の原因は修正できた。まあ、いろいろあって、言いたくないんですけど……」と多くを語らなかったが、この2ホーマーで吹っ切れたようだ。

 国士舘との準決勝。3回にインコースのストレートをとらえて、「完璧だった。最近では一番、いい当たり」という打球の飛距離は推定130メートル。この打席、インコースにタイミングが合わず、三塁方向にファウルを2球、打ち上げた後のホームラン。5球の中で修正した意味のある打席だったとみる。

「打てなかった期間、いい経験になった。次にまたこういう時に対処する引き出しが増えました」

春の戦いで熟成した感のある早稲田実

 都大会は3番・清宮が5本塁打、4番を打つ野村大樹も負けずに5本塁打。野田優人、雪山の1、2番も固まりそう。下位打線もしぶとく繋げる役割を果たした。課題は投手陣だ。センバツ敗戦後、和泉監督は「投手をどう立て直すのか」と問われ、「どうしたらいいと思いますか」と記者に苦笑いで聞き返したシーンがあった。都大会も状況はあまり変わらなかった。池田徹、服部雅生、石井豪、大垣洸太、赤嶺大哉に、今はケガで投げていない中川広渡と頭数はいるにはいるが……。

 投手陣が打ち込まれ、清宮もホームランの出ないまま、不完全燃焼、中途半端だったセンバツ。そして「センバツロス」も重なる新チームのスタートの難しい春の序盤。そこから清宮が復調し、全体に緊張感が出て、チームのムードも盛り上がって優勝まで駆け上がった。チームが醸成した感がある。

 関東大会から夏の本番へ。早稲田実の都内連勝は続くのだろうか。

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著者プロフィール

1963年、長野県生まれ。ベースボール・マガジン社を退社後、週刊誌の記者を経てフリーに。「ホームラン」「読む野球」などに寄稿。野球を中心にスポーツの取材に携わる。

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