子供たちに「急がば回れ」を教えられるか スペイン暮らし、日本人指導者の独り言(18)

木村浩嗣

勝利への最短距離を突っ走りたい子供たち

Bチームを指揮したのはスクールの校長。彼も勝ちたいからロングボールのパワーサッカーを仕掛けてきた。それが功を奏したわけで子供たちがあれを勝利への近道、と思わないか心配だ 【木村浩嗣】

 シーズンも残り2カ月となり5試合のカップ戦が行われている。選手不足による勝ち点剥奪問題(関連リンク参照)は解決できておらず、Aチームは3連勝で首位のはずが1試合を没収され、Bチームは前節の12‐1の大勝利が0‐3で負けと見なされ3連敗。

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 こういう状態だから、このカップ戦をモチベーションとするわけにはいかず、パスサッカーの進化をシーズン最後の目標とした。ポゼッション力とコンビネーション能力を上げようという試みである。そのために、これまで原則禁じていたGKへのバックパス、後方へのスローインも奨励することにした。共にリスクのあるプレーだが、ポゼッションサッカーをしたいのなら不可欠である。

 だが、これが子供たちのコンペティティブさの反発を買った。

 彼らは勝ちたい。勝利のためにはボールロスト時のリスクが少ないからスローインは前のスペースへ投げ込んだ方がいいし、GKへバックパスなんて危なっかしくてやってられない。私は監督だから、例えオウンゴールになり、それで負けたとしても、将来性のあるプレースタイルが身に付いた方が良いと思うが、子供たちの方は目先の勝利の方が優先である。そもそも勝つためにGKへのバックパスも後ろへのスローインも避けてきたし、それで結果を出してきたのだ。今さらその逆をやれと言われても……ということだろう。

 GKへのバックパスの練習はしても試合やミニゲームでは、私の指示を無視しやらない。バックパスの方が勝てる、と彼らが納得するには時間が必要だ。幸いスペイン、セビージャの有名なお祭り(「聖週間」と「ラ・フェリア」)のせいで週末に公式戦は組まれておらず、コンペティションを忘れて練習に集中できる状況にある。勝利への最短距離を突っ走りたい子供たちに、日本風の「急がば回れ」を教えられるだろうか?

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著者プロフィール

元『月刊フットボリスタ』編集長。スペイン・セビージャ在住。1994年に渡西、2006年までサラマンカに滞在。98、99年スペインサッカー連盟公認監督ライセンス(レベル1、2)を取得し8シーズン少年チームを指導。06年8月に帰国し、海外サッカー週刊誌(当時)『footballista』編集長に就任。08年12月に再びスペインへ渡り2015年7月まで“海外在住編集長&特派員”となる。現在はフリー。セビージャ市内のサッカースクールで指導中。著書に17年2月発売の最新刊『footballista主義2』の他、『footballista主義』、訳書に『ラ・ロハ スペイン代表の秘密』『モウリーニョ vs レアル・マドリー「三年戦争」』『サッカー代理人ジョルジュ・メンデス』『シメオネ超効果』『グアルディオラ総論』(いずれもソル・メディア)がある

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