モナコが充実した内容でCL4強進出 18歳の仏代表FWムバッペが躍動

中野吉之伴

裏のスペースをケアするカバーリングには難あり

守備ライン前の危険なスペースを香川真司に何度も使われるなど、ピンチも見られた 【写真:アフロ】

 モナコの守備はどうだろうか。

 相手が守備ラインからビルドアップをしようとすると、ムバッペ、ファルカオの2トップに両サイドのレマルとシウバを加えた4人が、まず高めの位置からプレスをかける。相手CBからボランチまでを抑えることで、ボールを前に運ぶ起点を抑え込むのだ。ファーストレグの前半はこれが非常に機能していた。

 だが、ここでの守備をかいくぐられ一気に逆サイドに展開されたりすると、守備の修正に時間がかかり、ピンチになってしまうことが多い。そのため後半開始からパスワークに秀でたヌリ・シャヒンが投入されると、中盤で相手に攻撃の起点を作られてしまい、守備ライン前の危険なスペースを香川真司に何度も使われた。

 モナコがここから崩れなかったのは、こうした前からのプレスと並行して、相手にボールを運ばれた時には自陣近くで堅い守備ブロックを敷くバリエーションも整備されていたからだ。両サイドからクロスを入れられても、ドルトムントの攻撃陣で空中戦に強いのはピエール・エメリク・オーバメヤンだけ。CBのカミル・グリクとジェメルソンは常に相手を挟み撃ちにする状態を作り上げていた。

 ただ、それぞれ前へと当たっていく守備には強いが、裏のスペースをケアするカバーリング意識に難があるために、裏のスペースに飛び出してくる香川やマルコ・ロイスを逃してしまうことがある。ファーストレグの終了間際に香川が見せた見事なゴールはそんなモナコ守備陣の隙を突いたものだった。

ムバッペが見せた落ち着きとシュートの正確性

ムバッペ(左)のゴール前での落ち着きとシュートの正確性は群を抜くものがある 【写真:ロイター/アフロ】

 セカンドレグではボランチのジョアン・モウチーニョとティエムエ・バカヨコが守備ラインとの距離をコンパクトに保つことで、そうした動きにも対処した。相手のクロスボールに対してもセカンドボールをことごとく拾えていたので、焦って守備ラインを高くする必要もなく、むしろ前線のスピードを生かしたカウンターを有効に使える状況にできていたわけだ。

 こうした戦い方がはまった要因の1つとして、ムバッペの充実ぶりが挙げられる。身体的にもサイズがあり、フィジカル的なスピードとしなやかさと強さがある。スペースに顔を出すタイミングとコースにも優れており、相手のチャージを受けても体のバランスを崩すことなく、ボールを持ち直すことができる。ドルトムントのDFソクラティスを1対1であれだけ軽やかに抜き去れる選手はそうはいないだろう。

 そして何より、ゴール前での落ち着きとシュートの正確性は群を抜くものがある。ファーストレグでのピシュチェクのミスパスを拾ってからの独走シュートの場面では、一瞬のうちに自分がフリーな状況なのを確認して、右足を振り抜いた。セカンドレグの先制ゴールのシーンでも、慌ててふかしそうなそぶりを全く見せずに、しっかりとボールを蹴り込んだ。誰にでもできることではない。

両チームのサポーターが見せた“あるべき姿”

両チームのサポーターの存在がサッカーの持つ人を結びつける力を信じさせてくれる 【Getty Images】

 最終的にモナコが充実した内容で準決勝進出を果たした。「たられば」はどんな試合にも存在する。ドルトムントは自分たちではどうすることもできないことに巻き込まれてしまったのだから――。あんなことがなければ、また違った試合展開になったはずだ。だが、モナコが素晴らしい試合を見せたのも紛れもない事実なのだ。

 そして、この2試合における最大の勝者は両チームのサポーターではないだろうか。

 試合が順延されたとき、「寝るところがなくて困るのではないか? うちに泊まってくれ」と、ツイッター上でモナコサポーターに呼び掛けたドルトムントサポーター。ツイッターやインスタグラムなどのSNS上には笑顔で食事をし、一緒にスタジアムに向かう彼らの写真がたくさん上げられていた。

 そんなドルトムントサポーターの愛情に感謝し、「モナコにようこそ。一緒にこの試合を祝おう、楽しもう」と呼びかけたモナコサポーターもいた。試合が始まればどちらも勝利を目指して戦う。でも僕らは敵じゃないんだ。そうした“あるべき姿”を世界に見せてくれた。

 彼らの存在が、サッカーが持つ人を結びつける力を信じさせてくれる。

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著者プロフィール

1977年7月27日秋田生まれ。武蔵大学人文学部欧米文化学科卒業後、育成層指導のエキスパートになるためにドイツへ。地域に密着したアマチュアチームで経験を積みながら、2009年7月にドイツサッカー協会公認A級ライセンス獲得(UEFA−Aレベル)。SCフライブルクU15チームで研修を積み、016/17シーズンからドイツU15・4部リーグ所属FCアウゲンで監督を務める。「ドイツ流タテの突破力」(池田書店)監修、「世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書」(カンゼン)執筆。最近は日本で「グラスルーツ指導者育成」「保護者や子供のサッカーとの向き合い方」「地域での相互ネットワーク構築」をテーマに、実際に現地に足を運んで様々な活動をしている。

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