チームの真の実力を表すデータが存在!? アナリスト視点でBリーグを見よう(1)

佐々木クリス

A東京と仙台には20.9点分の開きが存在

NETレーティングでは、A東京(黒)と仙台(白)には20.9点分の開きが存在した 【写真:アフロスポーツ】

 次に、守備においての目的は「いかに失点を少なくするか?」であるならば、「いかに相手の得点効率を低くするか?」と置き換えられます。

 攻守における効率性は、全49試合(26節終了時点)を戦ったひとつのB1クラブの総得点or総失点÷49試合での総攻撃権数で算出できます。しかし、B1には幸い開幕からバスケットボール専用の分析ツール「Synergy」が導入されており、この攻守の効率を数値化してくれています。

「Synergy」から算出したBリーグにおける1回の攻撃権あたりの得点効率の平均は0.891点。Bリーグの理念のひとつに「世界に通用する選手やチームの輩出」が掲げられているので参考までに紹介すると、世界トップクラスのリーグ、スペインACBは0.956点、世界最高峰NBAにおいては0.97点とかなり1に近い数字となっています(※スペインACBのチームがNBAチーム相手に同等の効率を発揮できるということにはなりません。あくまでもリーグ内の相対的な数値です)。

 それでは、チームの“真の力”をいかに導き出すのか?

 まずは、1回の攻撃あたりの得点効率、引くことの1回の守備あたりの相手の得点効率により攻守の差異を抽出します。A東京を例にすれば、攻撃0.964−0.86=0.104となります。リーグ平均の効率は0.891で、これは攻撃、守備でイコールになります。攻撃ではこれを上回ればリーグ平均以上の攻撃、守備では下回ればリーグ平均以上の守備となります。

 攻守において平均よりも良い数字を出しているA東京ですが、プラスマイナス0.104という数字にピンと来る方は少ないかもしれません。1回の攻撃あたりの値であるため少ない数になるのはいたし方ありません。そこで最初に紹介した通り、100回の攻撃権(ポゼッション数)を全チームが得たという同一条件下に置き、これをチーム真の力=NETレーティングとしてランキングにしたものが記事冒頭の図表となります。

 A東京の場合は1回攻めて、1回守ると0.104点差。これを100回攻めたとして、10.4点分プラスに転じる力があるということ。プラスマイナス0に近ければ近いほど平均的なチームという考え方で、A東京は平均的なチームと100回の攻撃権があったペースで試合を進めると10.4点上回るチーム力であることが示されています。仙台89ERSファンにとっては残念な事に、A東京と試合をした場合は−10.5(仙台)、+10.4(A東京)、と両チームの力には100回の攻撃権あたり20.9点分の開きがあると、試算ではおおよそ考えられます。

 また、攻守の効率性の平均を基準に、クラブが攻撃型なのか、守備型なのかも分類することが可能となります(※図表の右部分参照)。

数値に表れる千葉の試合巧者ぶり

1月にオールジャパンを制した千葉は、試合巧者ぶりがデータに表れているという 【写真:アフロスポーツ】

 さて、このNETレーティング・ランキングをご覧いただいて、皆さんはどのような考えを持ちますか? A東京の優勝決定? まあ、焦らないでください。

 第26節終了時の勝率と照らし合わせると、さらに面白い考察が生まれます。例えば、攻守TOP5の効率性を見せるクラブはA東京、三遠ネオフェニックスの2つだけで、勝率5割台でありながら三遠のバランスの良さは期待感を抱かせます。上向きのチーム状態のままCSに進出となれば決して侮れない存在です。

 川崎、三河は攻撃的と分類できます。今は横綱相撲を取っている印象がありますが、2チームの守備力にはまだまだ使っていないギアがあるのかどうか? ここがCSでは大きな鍵になりそうです。

 事実、1月に行われたオールジャパン(天皇杯)では、準決勝、決勝で三河、川崎を立て続けに破った千葉ジェッツが見事プロクラブとして史上初の栄冠をモノにしました。千葉のディフェンスが素晴らしかったのは言うまでもありませんが、むしろ攻撃的な2チームを上回る攻撃の流れを維持し続けられた千葉の攻撃を僕は評価しています。そのバランスの良さがバランス型として数値にも現れていますね。

 実際、52−56などといったロースコア・ゲームでは選手の個人能力が圧倒的にものをいいますし、攻撃的なチームは1〜2本シュートを決めるだけで一気にたたみ掛けてきます。千葉は相手の得点をストップするばかりか、自分たちの攻撃でよどみなく得点を重ねることで、さらに攻守のリズムを増長させていったと考えられます。大きな要因はピック&ロールと呼ばれる連係プレーと、そこから派生する3Pシュートの質ですが、この解説はまた別の機会にじっくりとご紹介したいと思います。

下位チームでも守備的チームはチャンスあり!?

 さてランキングに戻って、まだまだ底が知れない上に基盤もしっかりしているチームは栃木です。今のB1においては、栃木の守備は思考というよりDNAレベルにまで到達していると感じさせます。攻撃面ではまだまだ爪を隠している節も多く、大きな伸び代を残すと思えば、NETレーティング5位でありながら8割を超す勝率は当然かつ、末恐ろしいものです。

 ワイルドカード争いをしているクラブの中では、琉球ゴールデンキングスがリーグTOP3に入る守備力を武器にNETレーティングでも8位と健闘。本来ならば勝率5割のチームと考えてもいいでしょう。琉球のバスケ熱の高さは重々承知しているつもりで敢えて書くならば、守備ファーストのチーム文化に若手の成長が加われば攻撃の改善もなされるはずで、例え今季CSを逃したとしても全てが失敗だったと落胆すべきではありません。

 その琉球と西地区の2位を争う大阪エヴェッサも数字的には守備的ですが、シーズンが進むにつれ攻撃面も向上しています。僕の考えでは、攻撃は連係面を含めて向上の余地があると思っています。大阪の場合はけが人の復帰や途中加入の選手の貢献もプラスに作用しているはず。逆にシーズン序盤から守備に難があるチームが一気にこれを改善する特効薬というものはなかなか見つけにくいかもしれません。個人的には下位チームでも守備的な方が、チームに可能性を感じてしまいます。

 今季ジャイアント・キリングも見せる守備的な秋田ノーザンハピネッツも、全体的なシュート力さえ安定していればNETレーティングや勝率ももっと上がったと考えられるクラブです。レバンガ北海道にも言えますが、3チームがNETレーティングTOP5に入る強豪ひしめく東地区にいる事が数字の低下に影響しているのは間違いないでしょう。

 さて、NETレーティングがおおよそ勝率を反映する形になった今回のランキングですが、気をつけなければならない点があります。それは対戦相手の強さです。

 NETレーティングTOP5、勝率でもTOP5に入るチーム同士の対戦での勝率は、A東京.466、三河.625、川崎.500、栃木.625、千葉.250(天皇杯以降の栃木戦は1試合のみ)となっている上、お互いに100回攻めても3.6得点分しかない力の差で密集しています。この5チームだけのリーグ戦があれば、NETレーティングの数値も変わってくるはずです。

 さあ、A東京優勝宣言には待ったが掛かりましたね。本当のゲームで3点差の展開は最後の1秒まで勝敗が決まらない超接戦です。バスケファンならば誰もが望む白熱のゲームでしょう。史上初のBリーグCSは、歴史的ゲームにあふれた熱戦ばかりになる事が期待できそうです。

(データ提供:B.LEAGUE、グラフィックデザイン:相河俊介)

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