飛躍する男子テニスのホープ、西岡良仁 体格の不利、焦りの日々を乗り越えて

内田暁

父から授けられた力

14歳での渡米後、けがに苦しみ、結果を求めて焦る日々も経験した 【Getty Images】

 本人が「一番苦しい時期だった」と振り返る1年目のけがを乗り越えると、西岡は次々に結果を出していく。2012年には、全米オープンジュニアでベスト4入り。その2年後には、18歳にして全米オープン予選を突破し初のグランドスラム本選出場を果たす。また同年9月には、アジア大会で金メダルを獲得。小柄な身体で、上のステージへの壁を次々飛び越えていく彼の姿は、テニスという競技の新たな可能性を示しているようでもあった。

 そんな彼に「あなたの武器は何か?」と尋ねれば、「ミスが少ないこと」との答えが即返ってくる。今回のBNPパリバ・オープン2回戦で、2メートル11センチのイボ・カロビッチ(クロアチア)との“ツアー最大身長差対決”を制した時にも、彼は「僕、速いですし、ミス少ないし、左利きというアドバンテージもある」と自身の武器を明言した。快足を飛ばし、相手が放つボールの下に潜り込むように滑り入ると、跳び上がりながら下から擦り上げるようにして、鋭いスピンをボールに掛ける――。自らはミスをせず、左腕特有の回転を掛けたショットで相手のミスを誘うのが、西岡良仁のテニス。そのような彼のプレースタイルは、テニススクールを経営する父に授けられたものでもある。

「僕の体格のこともあり、お父さんからも、粘って粘ってミスをしないという方向に12歳の頃から導いてもらった。それがまず、ベースにあると思います」

 プロに転向したばかりの18歳の頃、彼は自身のテニスの起源をそう語った。その真価を発揮しカロビッチを破った日は、父親の誕生日。最高の誕生日プレゼントに、父親も喜んでいたという。

世界3位に善戦も「正直、悔しい」

4回戦のワウリンカ戦。力は尽くしたが、世界3位の力も実感した 【Getty Images】

 2回戦でカロビッチの超高速サーブを攻略し、3回戦のベルディハ戦ではマッチポイントを握られながらも奇跡的な逆転勝利を手にした西岡の“個性を磨いたテニス”は、4回戦で対峙(たいじ)した世界3位のスタン・ワウリンカ(スイス)をも、勝利まであと2ポイントに追い詰めた。しかし西岡が勝利へとにじり寄るにつれ、世界3位は冷静さを失わず、強烈なウイナーで挑戦者の勢いを跳ね返す。

「最後の最後で、相手はミスなくしっかりコースに打ち切ってきた。最後はやっぱり、トップの力を見せられたかなと思います」
 敗戦の事実を冷静に受け止め、敗因を明確に分析しつつも……彼はフッと、口元からこぼす苦いため息とともに言った。

「やっぱ惜しかったですよね……正直、悔しいです。チャンスはあったので悔しいし『予選2試合を戦っていなければもしかして』という気持ちもあります。でも、それも自分の実力の範囲。悔しいですが、今日は自分の力を全部出し切ったと思うので、悔いもない」

 一度は予選で敗れながらも、巡ってきた幸運をつかんで離さなかった西岡は、約1週間で6試合戦い、敗戦の中からも掛け替えのない経験を積んだ今大会を、こう振り返った。
「今後再戦したり、他のトップの選手と戦うことになっても今日の試合は自信になるし、今後につながる」。だから……と、彼は続ける。

「今、自信がたくさんついてきている。いろんな可能性が見えてきたのではと思います」

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著者プロフィール

テニス雑誌『スマッシュ』などのメディアに執筆するフリーライター。2006年頃からグランドスラム等の主要大会の取材を始め、08年デルレイビーチ国際選手権での錦織圭ツアー初優勝にも立ち合う。近著に、錦織圭の幼少期からの足跡を綴ったノンフィクション『錦織圭 リターンゲーム』(学研プラス)や、アスリートの肉体及び精神の動きを神経科学(脳科学)の知見から解説する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。京都在住。

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