シャペコエンセが挑む「ゼロからの再建」 優遇措置を拒否し、クラブの矜持を示す

沢田啓明

「仮に無償であろうと、スターは必要ない」

イバン・トッツォ副会長は「温情には感謝するが、特別な優遇措置は望まない」とクラブの矜持を示した 【写真:ロイター/アフロ】

 44人の尊い命を失っても、“奇跡のクラブ”は怯まなかった。

 体調不良のため遠征に参加していなかったイバン・トッツォ副会長が暫定会長に就任すると、12月初め、かつて中堅クラブを率いてコパ・ド・ブラジルを制覇した経歴を持つバグネール・マンシーニを監督に招へい。新たに編成された強化部は、年末年始の休暇を返上して選手獲得に乗り出した。

 シャペコエンセには世界中のフットボール・ファミリーから同情が寄せられ、国内外の多くのクラブが選手の無償貸与を申し出た。さらに、元ブラジル代表のMFロナウジーニョ、FWアドリアーノ、元アルゼンチン代表MFフアン・ロマン・リケルメらが「無給でプレーしてもいい」と名乗り出た。

 しかし、クラブは自分たちが求める特長を備えた選手、すなわち比較的安価でありながら確かな実力を備え、なおかつチームのために身を粉にしてプレーする選手の獲得にこだわった。「仮に無償であろうと、スターは必要ない」(クラブ関係者)という結論に達し、限られた予算の中で選手を1人ずつ獲得していったのだ。

 また、複数の国内クラブが「今後3年間、シャペコエンセには成績にかかわらず降格を免除したらどうか」とブラジルサッカー連盟に提案したが、暫定会長は「温情には感謝するが、特別な優遇措置は望まない」とこれを拒絶。“奇跡のクラブ”としての矜持(きょうじ)を示した。

 こうして新たに選手を獲得したクラブは、約3週間のプレシーズンキャンプを実施。2チームを編成し、Aチームがサンタ・カタリーナ州選手権に、Bチームがブラジル南部諸州の主要クラブが参加するプリメイラ・リーガに出場した。

クラブとチームをゼロから再建する

8月末には、バルセロナが主催するジョアン・ガンペール杯に出場するなど、今後は南米以外の地域でも試合を行う 【Getty Images】

 マンシーニ監督が目指すのは、中盤で激しいプレスをかけて相手ボールを奪取し、素早い攻守の切り替えから、手数を掛けず効率よく攻めるチームだ。今季の目標は「州選手権で優勝し、コパ・リベルタドーレスで1次リーグを突破し、全国リーグで10位に食い込むこと」である。

 州選手権の前期(州選手権は前期・後期の2期制で行われる)では、2勝1分けと上々のスタートを切ったシャペコエンセだが、強豪アバイには連係不足を露呈して0−3と完敗。それでも戦術を練り直し、終盤の4試合を3勝1分けで乗り切って、最終的に5勝2分け2敗と2位に食い込んだ。一方、プリメイラ・リーガの1次リーグでは2分け1敗で4チーム中3位に終わり、敗退が決まった。

 コパ・リベルタドーレスでは、1次リーグ初戦に勝利した後、16日に昨年のアルゼンチン王者ラヌースをホームに迎えた。スタンドは勝利を期待するサポーターで埋まったが、相手選手の巧みなパス回しに翻弄(ほんろう)され、シャペコエンセは本来の戦いができない。

 それでも後半4分、味方選手のミドルシュートをカットしたFWロッシが至近距離から蹴り込み先制するも、直後の後半7分に左サイドを突破され、ニコラス・アギーレに同点ゴールを奪われる。その後、21分には右サイドの深い位置にロングパスを通され、ペナルティーエリア内でDFがラヌースのFWを倒してPKを与えてしまう。これを決められ逆転を許した後、再び右サイドを突破され1−3で敗れた。

 引き分けでもグループ首位に立つことができただけに、非常に痛い敗戦となった。とはいえ、4チームがいずれも勝ち点3で並んでおり、勝負はこれからだろう。マンシーニ監督は「今後さらに戦術練習を積み重ね、攻守両面で連係を深める。それと同時に、全国リーグが開幕する5月上旬までに選手を数名補強したい」と語っている。

 8月末には、バルセロナが主催するジョアン・ガンペール杯に出場し、その前後にはスルガ銀行チャンピオンシップでルヴァン杯を制した浦和レッズと埼玉スタジアムで対戦するなど、今後は南米以外の地域でも試合を行う。

「われわれは、世界中のファンから注目されている。クラブのために命をささげてくれた選手たちに恥をかかせないためにも、必ず結果を残す」(マンシーニ監督)という気概を持って、シャペコエンセは「クラブとチームをゼロから再建する」というフットボール史上、前例のない困難なミッションに挑み続ける。

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著者プロフィール

1955年山口県生まれ。上智大学外国語学部仏語学科卒。3年間の会社勤めの後、サハラ砂漠の天然ガス・パイプライン敷設現場で仏語通訳に従事。その資金で1986年W杯メキシコ大会を現地観戦し、人生観が変わる。「日々、フットボールを呼吸し、咀嚼したい」と考え、同年末、ブラジル・サンパウロへ。フットボール・ジャーナリストとして日本の専門誌、新聞などへ寄稿。著書に「マラカナンの悲劇」(新潮社)、「情熱のブラジルサッカー」(平凡社新書)などがある。

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